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その花は天地の間に咲く 前編  作者: 檜崎 薫
第一部
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婚礼衣装

 良心の呵責も感じながらユーゼフは自分の城へ向かっていた。彼は、翌日ルドヴィカと結婚する。衣装も何とか間に合ったので式を挙げる支障はないはずだった。だが彼の心が痛みを訴えている。ー何だろう、この得体の知れない痛みは?ー想いながらも訳を聞ける相手がなく、ユーゼフは痛みを堪えて部屋に向かうほかなかった。

 婚約者の部屋に行くと、既に訪問客がいたようで女性たちの歓声が聞こえてきた。

 「入っても大丈夫かい?」

ユーゼフが聞くと、少し待ってほしいと声がした。聞き慣れた声だが婚約者の声でない。

幼い子供の声もする。ーまさか。ユーゼフははっとした。

 「ロッテ…来ていたのか」

 「ええ。ー兄の子と一緒に」

公爵夫妻と一緒にいたはずだと思ったのだがそれは言わなかった。

 「ごめんなさい。私を探していたようで、夫人の手をほどいて歩き回っていたの」

ーシャルロッテは言った。

 「イマヌエルはどこに?」 

 「お母上と一緒にいるわ」

 「そうかー」

 イマヌエルが母親といると聞いて、聞きに行くのはやめようとユーゼフも考え直した。クラウスの結婚した時ゴットフリートが式に呼ばれていたかどうか、それを知りたかったのだが、本来なら先に聞いておくべきだっただろう。ールドヴィカが未亡人で子も産んでいると伝えた時、ゴットフリートも、それは知らなかったと言っていた。あの様子から、彼もクラウスと知り合いでなかったか、まだそこまで仲良くなかったと見るべきだろう。

 ユーゼフはまた悩んだ。母親よりも叔母に懐いたのを見ると、アンゼルムを引き取って育てるには無理があったかも知れない。そのことをルドヴィカも気にしていたのだ。ただ花嫁衣装を見るという用事も作って彼は来ていたがー

 「ー母親には馴染めそうか?」

 ユーゼフは妹に聞いてみた。

 「まだ」

シャルロッテは答えた。ーお義姉様より先に私と会ったのが響いたかも知れないわ。だがこれは彼女を責められることでもなかった。

 「少しずつ慣れてくれればいいが」

ユーゼフが言えたのはそれだけだった。

 「公爵が僕と兄弟でないことは、ロッテも知っていたんだね。アンゼルムの父上のことは」

 ユーゼフはシャルロッテに言った、

 「彼のお父様に聞きました。ー聞いていて辛くなるほどでしたけど」

 「ああ…」

ユーゼフは呟いた。ー一番痛みを抱えているのは、おそらくイマヌエルだろう。実の兄が過ちを犯し、婚約者の母親を殺したり、他の貴婦人と姦通したりしている。そのため彼は婚約者とどう和解するか悩んでいた。今でも彼とシャルロッテは完全に打ち解けていないのだ。

 「ここで一旦退散するわ。ーお兄様、また後で」

言いながらシャルロッテは立ち去った。その後を小さい影が追いかけた。

 「アンゼルム様ー」

 「せっかくお母上がいらっしゃるのに」

侍女たちは言うが、まだ年端もいかない子をそう責めるわけにもいかない。ーユーゼフはここでやっと呼びかける決心がついた。

 「ルイーザ、入っていいか?」

 部屋の主に声をかけると、どうぞと静かな声が帰ってきた。扉の奥にルドヴィカが1人座っている。ー侍女たちは彼女の息子を追いかけ出ていってしまった。

 「これが、…4年前に着た衣装なんだね」

見事な仕立てに感嘆しながらユーゼフはそう言った。

 「すごく手が込んでいる。ー見事だとしか言いようがない」

 「伯父も初めて仕立てさせたそうです」

 「結婚式の晴れ着を?」

 「ーええ」

この衣装を、許嫁と一緒になる時着たらいいと彼女は伯父に言われていた。だがその話をここでするわけにはいかない。ー自分が着たところを一番見せたくない人をここへ連れて来てしまった。どう話したらいいのだろう。

相手がどれだけ気性が激しいか、彼女はよく知っていた。ここまで来てさらってほしいと言おうものなら、なぜ断らなかったかと彼は激怒するに決まっている。ー黙って式に臨むしかないわ。ルドヴィカはため息をついた。

 既に挙式一日前で、もう悩む時間はない。

侍女に花嫁衣装を託すと彼女は打ち合わせに向かった

 

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