城主の意思
夕食が済むと、公爵は執事に城を案内させ息子には自分と残るように命じた。ーそれで
シャルロッテは執事について行った。
「だいぶ年数が経っておるゆえ、殿下には息苦しく感じさせるやもしれません。どうかご了承願います」
ー執事は言った。
「カルナッハ城が建てられたのは?」
「もう5世紀は前のことと聞いております。帝国と某王国の間でかの事件があった、その前後ではないかと私は推測いたします」
シャルロッテの問いに執事は答える。
「修築はたびたびさせておりますが…中には傷み具合がひどく部材から交換のいる箇所もあったということで、城全体が、建てられた当初より小さくなりました」
「建てられたきっかけというのを伺ってもいいかしら」
「ー無論にございます」
執事は言った。
「祖国を亡くした人々がこちらへ避難して参りまして、その中に政治の中枢に身を置く高貴な方が紛れていたそうです。女帝の甥がアステンブリヤに大公を差し出せと」
「ー退位を迫ったのね?」
「お察しの通り。…同盟国の民は引き取り、その王家を討ち滅ぼした首謀者に退位するか、もしくは公開処刑を受けるか2つのうちいずれかを選べと」
息子をたぶらかし罠にはめたその女の父親を退位させ女の国を滅ぼせ。さもなくば大勢の遺民の見ている前で処刑せよ。ー女帝は甥にそう命じたという。
「ずいぶんと怒りが大きかったのね」
シャルロッテは言った、
「女帝には自身の娘同様の存在だったそうで」
執事はそう彼女に言った。
「…亡くなった王女が?」
「さよう、…女帝自ら作法を教え込むなど、王女にはだいぶ心血を注いで育てていたそうです」
その王女が味方の王国軍に討たれ命を落としましたので、罠にはめた大公国へ祖の報復がなされたのです。
話をする間に2人は客室についた。
「こちらがお使い頂くお部屋です。調度や備品は常に点検しておりますが、不具合などございましたらいつでもお声掛けください」
「…まあ、大きなお部屋」
シャルロッテが目を見張った。
「若様のご婚約者と先刻伺いましたので、お一人で身支度など整えて頂けるよう侍女も手配してあります」
「世帯向けという訳ではないの?」
「それはございません。ーあくまで単身者用に作られております」
ーはあ、とシャルロッテはため息をついた。ーまるで隠れ家を提供するようだわ。1人の客にこれだけ大きい部屋を使わせるなんて!ー彼女の考えに気づいたのか、執事は苦笑いしながら言った。
「立てこもりの総大将が使ったとも、伝え聞いておりますが…あくまでも伝聞ですので。詳細は不明ということでご了承ください」
ありがとうと言い、シャルロッテは部屋に入って寝支度を始めた。執事が下へ戻ると、宮殿から電話が来ていた。侍女長が受けたが
「奥様の婚礼衣装を借りたいと」
執事は直接聞けと夫妻の寝室を指で示した。
「旦那様!旦那様!…」
「何だ、寝る時分に騒がしい」
公爵は初め憮然としていたが、事情を知るとその怒りを収めた。そして妻に
「殿下にお召し頂こう」
と言ったのだがそれは受け入れられずー彼はあることを思い出した。
「ーあれを持って行こう」
公爵はそう言うと側近を呼んだ。
「お前は長男が城へ持って来た婚礼衣装を覚えているな」
「はい、確かに」
「あれを殿下にお渡ししよう。ーあれならお体に合うはず」
そして一着の白いドレスを衣装室から侍女に取り出させた。全体を絹織物で仕立てられた美しい花嫁衣装で、金糸で縁が縫い取られている。タフタでなくサテンで、スカート部に柔らかなドレープもある。
「そう、これだ。ー明日の朝持っていけるよう馬車に積んでくれ」
執事はこれをどこかで見たと思ったー




