衣装の借り受け
ー両親との会食が済んでからイマヌエルはユーゼフに連絡を取った。結婚式が翌々日に迫り、ユーゼフは花嫁衣装を見ているところだったが、妹が見つかったと聞いて彼も胸をなでおろした。
「そうか、男爵のところへ…」
「何度も妹君をなだめてらしたそうで」
執事はユーゼフに言った。
「やはり、イマヌエルに託すほかないな」
シャルロッテのことは。ーそう呟くユーゼフだったが、ルドヴィカは婚約者に顔を見せず籠もりきっていた。
「まだお見えになりませんね」
「…衣装を選んでいるのだろう。そのうちに出てくるから気にしなくていい」
ユーゼフは初めそう言った。ーだが鐘が鳴り始めてもルドヴィカは出てこないのだった。
後少しで6時課になる。アレッシオが来たためにユーゼフは彼にも対応することになり正直いたたまれない。待ちきれなくなって、彼はついに花嫁を呼び出した。
「…ルイーザ、大丈夫か?いつもより時間がかかっているようだけど」
ー執務室に用事が複数残っているため、彼は気が気でなかった。ルドヴィカはユーゼフの声に
「ああ、…ごめんなさい。どうも寸法がー」
「寸法が合わない?ーあれだけ手を入れてだめだって?」
「そう、…合わないのです。見て頂ける?」
ルドヴィカに頼まれ、ユーゼフは彼女が花嫁衣装を着たのを一緒に見た。ーだが、やはりドレスの寸法は花嫁に合わなかった。
「本当だ。ーいったいなぜだろう」
奥では衣装係が嘆いている。
「明後日にはお式なのにどうして…?」
「おかしいわ。ー絶対誰か持って行った」
いろいろと侍女は言っていたが、式の当日に間に合わないということは確かで、さすがにユーゼフも気が遠くなってしまった。
「こんなことがあろうとは…」
彼は頭を抱えたが、とにかく当日に間に合うよう代用を探すほかなかった。
「…ほかに着られる衣装は?」
ルドヴィカは侍女に替わりを探させている。
「もう延ばせませんものね」
「ーそうね」
ルドヴィカと侍女の会話。ーそうするうちに
とうとう6時課の鐘が鳴った。
「昼か。ー済まない、続きはまた後で」
明日イマヌエルの両親が君の子を連れて来て
くれるそうだ。ーユーゼフは言った、
「衣装を借りていいか聞いてみよう」
「えっ…それはさすがに…」
侍女も顔色を失った。
「いけません、ご主人様。ーよその方からご婚礼衣装をお借りするなんて…聞いたことがありません」
「一年に一度の記念となる衣装を、君主の妻だからと借りていいものでしょうか…」
ルドヴィカもためらったが、
「悩んでいる時間はないよ。ー自分の子もいる前で挙げるのだから、衣装を着こなして立派に歩く姿を見せたいだろう?」
そうユーゼフは言った。
「息子は今いくつに?」
ールドヴィカは尋ねた、
「今は2歳だ。…しばらく会わなかったから君も子供の歳を忘れたんだね」
苦笑いしながらユーゼフは答えた。
「もう少ししたら、判別がつくようになるだろう。子供が成長した時に自分の晴れ姿を感動と共に思い出してほしくないか?」
ユーゼフがそう言うのでルドヴィカもついに考え直した。
「解りました。…聞いてみてください」
「うん。ー食事の後で使者を出そう」
そうしてユーゼフは公爵家に使者を送りー
夫妻から返答を待つことにしたのだった。




