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その花は天地の間に咲く 前編  作者: 檜崎 薫
第一部
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秘められた理由

 「本日は当家へお越しいただき、光栄至極にございます。ー夜も近くなりましたので、ここで夕食と参りましょう」

公爵はそう言うと執事を呼んで食事の準備をさせた。

 「簡単なもので申し訳ないが、今回に限りそれでご勘弁ください。⋯明日以降は当家で通例のものを用意させて頂く」

着替えは食後にと言われシャルロッテはそのまま食卓についた。小さな王子は侍女の膝に抱かれ、食前の祈りに加わった。食事の皿もシャルロッテ、公爵夫妻、アンゼルムの順に運ばれ、最後にイマヌエルの前に置かれた。全員に食事が行き渡ると、公爵は自分の横に立つ司祭に合図した。

 「…ここにいる皆の精神と肉体の健康、また日々の往来とを絶えずお守りくださることに感謝いたします。そして必要なお導きを常に頂けますことに感謝いたします。どうかこの先も我々一同を導いてくださいますよう」

この文句で祈りは終わった、皆が目を閉じたまま十字を切ると

 「…蓋をお取りします」

執事は中央の大皿から半球型の蓋を取った。

 手前の小皿に少しずつ、野菜と肉、主食のパンを公爵は分けていった。その小皿を彼はやはり身分の順に同席者へ回した。

 「飲み物は水か炭酸水かを執事に仰せつけください」

 「ありがとう」

公爵の説明にシャルロッテは言った。

 「殿下が疑問をお持ちなのは、なぜ当家で兄上の忘れ形見をお預かりしたかということでしたな」

 「ーええ」

 「当家はかねてから国内の有力者と親交を結んでおり、その縁で妃殿下のお従兄弟筋と婚姻を結べるようになりました。それで姉はカフトルツ侯爵家に嫁ぎ、私はホルスタット伯爵家より妻を迎えました。ー妻の実家は、グラムダーツ公爵家の遠縁にあたりまして」

ー公爵は言う。

 「皇后の兄上サヴァスキータ侯爵、そして侯爵の娘婿アンドラーシュ殿とも私は知己となり得たのです。しかし、どういうわけか、結婚の翌年に妻は毒蛇を身ごもりまして」

次の春に出産いたしました。ー公爵は口調に苦みを隠しきれなかった。

 「妻は長男を産んだのですが、…どうも私と似ておらず、しかも幼い頃より荒れ放題でー医者や執事と相談し妻に問い詰めましたら、これは私との間に授かった子ではないと私に白状いたしました。来客と過ちを犯したと。ただその来客が誰なのか、それは今も解っておりません。過ちの相手は明かしてくれないので。ーこれきりにすると妻が言うので別に息子を産むのを条件に妻を許しました。私はしかし妻を抱く気になれず…何度か触れてみたものの肌を重ねるまでに至りませんで、妻に話した上で妾を作り数人産ませました。妻も私との間にしばらくは身ごもることがなく、 長男誕生から15年後にようやく妻は二人目の男児を産みました。ーそれが現在殿下の隣におります次男のイマヌエルです」

 ー公爵は重い口調のまま話を続けていた。傍らの夫人は下を向いていて、口を開こうとしない。

 「ところが、ー次男が3つになりますと、長男が銃の収集を始めまして、その銃を弟のいるそばで手入れするようになったのです。私も妻もさんざん注意しましたが長男にその叱責が聞かれることはなく…私と妻の不在中にその事故は起きました。銃の流れ弾が壁から跳ね返って次男の顔にあたったと。ー長男は砂でも入ったのだろうと弟に言ったそうですが、次男は熱と痛みを執事に訴えたらしく、医者に見せたところ、クラスター弾の破片が入ったものと判明いたしました。ー弟にそういう仕打ちをと思い長男を廃嫡したのですが今度は従兄の婚約者に手を出して、結婚前に妊娠させたのです。閣下が人づてにその話を聞かれ、母親はご自身の寵姫として生まれる子をご養子としてお世話してくださっていたそうですが、夫に去られた母親を慰めるうち閣下ご自身も恋に落ちたとー私の聞いている限りではこのようになります」

 「すると、…兄は父の実の子では…?」

シャルロッテも不安に駆られた、公爵も暗い表情だった。

 「そうお考えになった方がよろしいかと」

ー公爵の説明はそこで終わった。

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