義両親と会う
ーイマヌエルが領地に着いたのはもう夜も近くなってからだった。彼は馬を降りてからシャルロッテを降ろそうとした、だが彼女はやはり彼に触れられるのを嫌がった。それでイマヌエルはシャルロッテをなだめ、彼女を納得させてやっと馬から降ろしたのだった。乗馬服ではないためになかなか降ろしづらいのだが、イマヌエルは何とか彼女を降ろし、城の中へ案内した。
「…詳細は追々お話ししますから、今はまず城へお入りください」
ーイマヌエルに言われ、シャルロッテも渋々城の中へ入った。
「若様、…お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ!」
イマヌエルを見て、執事を筆頭に、使用人が皆頭を下げる。それと同時に、彼の横に立つシャルロッテを見て皆が息を潜めた。
「若様、このお方は⋯?」
執事が尋ねるとイマヌエルは言った、
「私の婚約者だ。ー丁重にご案内してくれ」
「大公の娘でシャルロッテです。ーしばらくお世話になるのでよろしく」
優雅な会釈を披露され一同はそれに見とれてしまったが、イマヌエルはそれに目もくれず一言
「⋯父上と母上は?」
と執事に尋ねた。ー奥の部屋でお待ちですと執事は答え、彼の外套を受け取ると城の奥へ2人を案内した。扉を2回叩くと中から声がした。ー威厳のある低い声。
「誰だ?ー鍵なら開いているぞ」
執事はその声に
「若様がお戻りです」
と伝え、それから下がってしまった。
「⋯ただいま戻りました」
イマヌエルは言った。
「ー殿下もご一緒か?」
「はい、⋯父上」
「ご苦労だった。ーとにかく入りなさい」
部屋に入ると、50代前半らしい男女2人の姿があった。イマヌエルたちが部屋に入るとその男女は立ち上がった。
「私の両親です」
イマヌエルは言う。ー身分の順に自己紹介が始まり、
「シャルロッテ・ツェツィーリエ公女殿下」
とイマヌエルがシャルロッテを紹介すると、
城主も自分と妻の名を明かした。
「私はカルナッハ公爵のエックハルト・フォン・プレグマイヤー、イマヌエルの父です。隣は妻のブリュンヒルデ。お目通りがかない光栄に存じます」
「ごきげんよう、…カルナッハ公爵、それに夫人。ご家名は聞いていたのだけど…ずいぶん立派な城をお持ちね」
シャルロッテが言うと、公爵は重々しく
「ご賛辞、恐れ入ります」
と答えた。その後で
「殿下のご来訪のご理由については、私も息子に聞いて存じております。ーご滞在中は最大限ご必要にお応えする覚悟ゆえ、執事に何なりとお申し付け頂きたい」
と言い、その後で公爵は息子に確かめた。
「お兄上のご子息をお預かりしていたな」
「…はい」
イマヌエルがうなずく。
公爵は執事を呼び出すと、
「アンゼルム殿下をこれへ」
「承知いたしました」
執事は短く返事をすると部屋を出ていった。
少し経つと2歳頃の幼児が侍女に連れられてやって来た。黒い髪と青い瞳を持つ涼しげな顔立ちの男児がーその男児を見た途端シャルロッテは泣きそうになった。侍女に声をかけられ、男児はシャルロッテの方へ歩き出した。
「叔母上ですよ、殿下」
「兄様!ー死んだわけではなかったのね!」
自分のもとに歩み寄ってきた男児を抱き上げシャルロッテは頬ずりした。
「3年前まではご存命でした」
城主は言った。
「当家がお預かりしてきた背景を、食事中ご説明いたします」
明日には宮殿へお連れする予定ですー。そう城主はシャルロッテに告げた。




