略奪
世界史大好き人間です。
ー頭に思い浮かんだものを
セリフや文章にして書いています。
…気が向いたら読んでやってください。
以上です。。
アステンブリヤ公が来た。ーこの知らせは宮廷中に騒ぎを巻き起こした。
「これはまたえらいことで…」
「何を目論んで来られたやら」
「もうじき結婚式だというのに人騒がせだこと」
ー上流階級の人々は一様に眉をひそめた。
「3年前の再来はゴメンですよ」
そう言って背を向ける者さえいた。それほど彼の所業は周りに反感を買っていた。正確には彼の父親の所業が。
アステンブリヤ公アレッシオ・アメデーオ3世。金髪に緑色の瞳を持った甘い顔立ちの美男子で、血筋やその物腰に惹かれ、多くの貴婦人が彼に思いを寄せていた。彼が3年前ある事件を起こすまでは。
『…クレステンベルクにいたぞ』
父親は彼に囁いた。
『お前の欲しがっていた娘が。行かなくて良いのか?』
父親のその言葉をアレッシオは黙殺した。
『黒髪の皇女を妻にしたい。そなたは以前そう言っていたであろう?』
『ーそれがどうかしましたか?』
『皇女をほしくないのか?』
『昔のことですから、もう』
それきりアレッシオは何も言わなかった。
妹は既に嫁いだと言われ、ルドヴィカとの結婚は諦めていたアレッシオだったが、そのアレッシオに父親はこう言った。
『ではもうあの娘は忘れたのだな』
『そういうわけではありません』
アレッシオは父親に言った。
『あの皇女は公爵に嫁いだそうだ』
『公爵とは、…父上』
公爵家なら我々を除いてもけっこうあるではありませんかーそうアレッシオは言ったが、
父親はそう思っていなかった。
『公爵家と呼ぶにふさわしいのは、息子よ。この家1つなのだ』
先代侯爵はそう言いー
『そもそも本来の帝国宗主家は我が一族のはずであった』
お前は皇帝の座が欲しくないのか?ー息子にそう言って、彼は反逆心を煽り立てた。
『あの地ならたやすく取れよう。城までは落とせずとも、お前は皇女1人連れてきたら良い』
そうしたらこの城で祝宴を挙げてやる。
ーロッセラーナでは皇帝とその家族を皇家また帝国宗主家と呼び、他の皇族また貴族を彼らとは別に扱っていた。皇太子にも長男の第一皇子が就いていたのだが、5世紀前ある事件が起き、太子は廃嫡され下の第二皇子が兄に取って代わった。それ以来、彼の子孫が代々皇家と呼ばれている。ー私が皇配の座に就けたら…アレッシオは思った。ー叔父も姉も私のことを見直してくれないだろうか。
アレッシオは父親に向き直った。
『あの方が嫁いだ相手は…』
どなたですか。ー息子にそう聞かれる前から
先代は地図を広げていた。そして自分たちの領地から20マイル近く東へ行った場所を指で指し示した。
『クレステンベルクー』
息子が呟くと、先代公爵は満足気にうなずきこう言った。
『そう、クレステンベルクだ。嫁いだのが私生児では、お前も納得いくまい?』
『私生児?ーあの公爵がですか?』
アレッシオはまた問うた。
『私生児だ。ー誰が手をつけて産ませたか解らないらしい』
父親の言葉に闘争心を掻き立てられ、彼はとうとう、馬を何頭も走らせ、他国の領地に忍び込んだ。ーもともと他家の陣営から離れ
静かに暮らしていたので、寝込みを襲われるとは誰も考えていなかった。狼煙が上がるとカテルイコフ家を初め多くの貴族から援軍が出たが、城へ着いた頃には夫妻は既に囚われいなくなっていた。
明け方に息子が皇女を抱え城へ戻って来ると、公爵夫人ーアレッシオの母親ーはそれを見て真っ青になった。
『なぜ殿下をこの城へ?既に嫁がれた方をお前がめとることはできません』
皇女を夫に返せと夫人は息子を詰った。
『お前の妻にはできないと、亡き皇太子が何度もおっしゃったでしょう!?』
『父上がこちらへお連れしろと』
なので従ったまでです。ーその言葉に夫人は具合悪くなった。寝室へ戻るなり夫人は夫に詰め寄り、こう言った。
『あなた、いったいどういうことですの?ご自分の息子に狼藉を働かせるなんて』
『あれがほしがっていたから、ほしいなら連れてこいと言ったまでだ。ー何もやましいことはしていない』
『でもあの方は隣国のー』
それはとても認められないと夫にすがりつく夫人だったが、先代公爵に妻の声を聞く気はなかった。
『自分の身内が庶子や私生児と結婚しても良いとそなたは言うのか?』
『仮にも陛下や皇太子様がお認めになった方です。ー私たちが口を挟んで良いことではありません』
公爵を名乗っておられたのも、そこに大公のご意思が動いたからでしょう。そう言って、夫人は考え直すように夫に頼んだが、聞かれなかった。その代わり先代は言った。
『来月にはあれも我が領地になる。我々も子孫も羽を広げて暮らすことができよう』
『どういう意味ですの、それは』
『そのままの意味だ。ーなに、あの土地をもらえばもう手出しはせん。戦争も一時だ』
済ました顔の夫に、公爵夫人は耐えられなくなった。
『なんてことをおっしゃるのです。和平を進めようという時になって、他国に攻め込むだなんて』
『何も国全体を取るわけではない。ほんの一部だけだ』
そういう先代の眼差しには、領土略取の強い野望が見て取れた。公爵夫人は夫と離縁することを願い、娘のアデライーデは、結婚より修道院へ行くことを願った。
『この家は近いうち滅びる。ー主家に従うより逆らうことを考えるなんて』
夫人は親戚筋を通しサヴァスキータ侯爵と連絡を取った。それでサヴァスキータ侯から迎えが来てルドヴィカは伯父のもとへ移ったのだが、1連の出来事は彼女の心に暗い影を落とし続けた。




