切り離し
ーユーゼフと対面したゴットフリートは、執務室で話を続けていた。
「僕はさすがにそうは思わない。ただ、君が後妻の身内だから、妹はそういう感覚で君のことを見ていたんだろう。それはこちらでもどうしようもないことでね」
ユーゼフが言うと、ゴットフリートは一言
「痛み入ります」
と答え、それからユーゼフにこう告げた。
「このままでは任務に差し支えるので爵位をお返ししたい」
「それはどうしてかな?」
ユーゼフは親友に問いかけた。
「ー使用人が口を利いてくれず、城の管理が滞っています」
「そうか。⋯」
少し思い巡らしながらもユーゼフは彼にこう答える。
「1人でやったのではなさそうだな⋯大人がついていたんだろう。でも誰だ?」
「母は、ー『ここに来てから愛人の物言いが滑らかになった』と」
ゴットフリートが言った。
「その男は、僕たちと同じような服装だったかい?」
「ーいいえ」
ユーゼフに聞かれゴットフリートは答えた。
「家で廃嫡になったそうですが、⋯その家がどこにあるかまでは」
彼は子供時代を思い出しながら話をした。
話をしながら、ユーゼフは妹のことをまた思い出した。婚約者の顔が誰かに似ている、見覚えがあると言ってシャルロッテがずっと隠れ回っていたのを。もしかしたらあの家の長男だったのかーいや思い違いかも知れないから黙っていよう。いろいろ考えながら彼は話を続けた。
「シャルロッテのことだが、⋯イマヌエルに探してもらっている」
「そうでしたか。ー公女殿下は,式にご参列なさらないと私は伺いましたが」
誤報ですよね?ーゴットフリートは言ったがユーゼフは真面目な顔でいや、と答えた。
「どうも本気らしい」
「ご兄弟のお祝いごとに不参加を通されるとおっしゃったのですか?」
「本気になると止められないからね。それで僕も困ってる」
ユーゼフは少し区切ってから話し始めた。
「妹が使用人を入れ替えたのは、反応を見るためじゃないかと思う」
「私の反応ですか?ーそれとも」
「先代と君両方のだろう。⋯もちろん子供の頃のことだから、どこまで考えてやったかは解らないが」
自分の兄さんがいなくなって寂しかったのもあるんだろうな。ーユーゼフは言った。
「⋯我々は何も」
養父の娘が死んでしまったことは母に聞いて知りましたが⋯。ゴットフリートは言った。
「解っている」
ユーゼフはうなずいた、
「侍女が証言してくれた。ー夫人の口添えで少年は実家に匿ってもらったと。ただ母親は先代と後妻の愛人が手にかけたという話だ」
ゴットフリートは押し黙った。自分の母親がそこまで恐ろしい男を相手にしていたというのが、彼には信じられなかった。
そこでしばらく沈黙が生まれた、その後にユーゼフが話し始めた。
「⋯君は爵位を手放したいと言ったが、その意思は変えられないのかな」
今は大変な時期で、実力者が抜けてしまうとこちらは動けないんだ。ーユーゼフの言葉。
「人が集まるまでお待ち頂ければ⋯」
ゴットフリートが答えると、ユーゼフは
「今はどうしてる?」
「領地だけは6人の侍従・側近と手分けして回っています。ー中は何も」
「⋯手がつかないのか」
ユーゼフが残りの言葉を引き取った。
「中にも手入れは必要だから、⋯そうだな、引退した侍女たちにそこへ行ってもらおう。そうすればいくらか違うはずだ。ーそれからもう1つ」
そう言いながら彼は再び書状を取り出した。
「⋯君が婚約者を手放さないと先代は嘆いていた。だが、どうしてもあの人は他の貴族に渡せないんだ。これがその理由だよ」
ー彼は書状をゴットフリートに差し出した。
そこにはルドヴィカと子供の名前、その脇に彼も見覚えのある男の名前があったー




