熱意
ー異母兄がゴットフリートと話をする間、シャルロッテは兵営から男爵領まで移動していた。結局は収穫の得られないまま男爵領を去ることになったが、母親の授かった称号が自分の系譜を解く鍵になると思い、その日は何も言わずにイマヌエルと一緒に帰ることにしたのだった。ーだが、自分が婚約者の家で彼の両親と食事するのだと知って彼女は少し固くなった。
「なぜ急にご両親と…?今でなくてもいいのではなくて?」
「ー私の方で会って頂きたいのです」
後にしてくれというシャルロッテだが、もう決めたことなのでとイマヌエルも後に引こうとしない。
「私との婚約をなぜ拒否されたか、理由はだいたい解っています。ただー」
イマヌエルは言った、
「あなたをお1人で城に置くのには不安が大きいので、当分私の城にいてください」
両親も一緒にいるので。ーそうイマヌエルはシャルロッテに言うのだった。
「私を子供扱いする気?」
「ー違います」
シャルロッテにも父親から譲り受けた領地があった。だがイマヌエルは危険だから自分の城へ連れて行くといいー
「私に抱いてらっしゃる感情を、少しでもなだめたいのです」
「ー本気で言っているの?」
まだ不信感をあらわにするシャルロッテ。
「私は本気です。でなければ政務を抜けてまで探しに来たりしません」
ー熱がこもるのを何とか堪えてイマヌエルは 婚約者に話し続けた。
「おそらく、今頃は侯爵とのお話も済んだ頃と思いますがー明日は亡くなったお兄上のご領地へ行き、それからユーゼフ様のもとへお送りします」
「結婚式のためでしょう、それは」
シャルロッテは言ったが、
「それだけではありません」
イマヌエルは彼女に告げた。
「ユーゼフ様も、亡くなったお兄上や彼の奥方とは会っておられたので、宮廷でお話をしてくださるはずです」
「ユーゼフ兄様が…では、兄は死んだ訳ではなかったの?」
「亡くなったことにされていただけです」
お母上を亡くししばらく荒れておられたそうですから。ーイマヌエルは言うのだった。
兄が少し前まで生きていたこと、兄が親になっていたことを知らされ、シャルロッテは
驚いた。それが隠されていたということは、悪企みをする者がどこかにいるのだろう。
イマヌエルの言葉がここまで長くなるのも珍しかった、だが彼が自分をなだめるためにそう時間を割くとはシャルロッテも思わずー
「あなたがここにいることをどのくらいの人が知っているのかしら」
「ユーゼフ様やルドヴィカ様はご存じだと思います」
「この国の世子が?」
「そうですよ。ーああ見えても、あの方はあなたの兄上でいらっしゃいますから」
男爵の屋敷で茶をすすりながら2人は話していたが、シャルロッテはまだ、イマヌエルに
ついていく決心ができなかった。
「婚約は…最悪、解消されても構いません。それは父も私も覚悟しています。ただ今回はついてきて頂かないと」
「ついて行ったらどういういいことが?」
「明日になればお解り頂けるはず」
イマヌエルは言った。ー〔明日になれば〕とずっと言っているけれど、何を私に見せたいのかしら。ーシャルロッテが考えていると、
イマヌエルは静かに言った。
「ルドヴィカ皇女が挨拶をくださった時、何か驚かれたりはしませんでしたか?」
「ーもう私をご存じなのかと思って。でもそれ以外は」
それが何か?ーシャルロッテは尋ねた。
「兄上ですよ」
イマヌエルは答えた。シャルロッテはそれを聞いて言葉が出なかった。
「亡くなったあなたの兄上です。ー兄上があなたの絵をお見せになったのです。これがご自分の妹だと言って」
明日、その証拠をご覧に入れます。微笑みを浮かべてイマヌエルは言った。それでやっとシャルロッテも彼についていく決心ができたのだった。




