調剤役
ー宮廷に着いたゴットフリートは、侍従の案内で執務室へ向かった。駅から連絡をしておいたので、ユーゼフは彼と話すため時間を空けてくれたという。侍従が扉を叩くと例によって中からユーゼフの声がした。
「殿下、侯爵がお見えです」
「ありがとう。ー通してくれ」
久しぶりに親友の声を聞いて少し緊張するゴットフリートだが、中に入るよう言われてそれまで通り執務室に入った。
「よく来てくれた。ーいろいろ話すことがあるので、来てもらえて助かった」
ユーゼフは言った、
「…ご無沙汰しておりました」
ゴットフリートが言うと、ユーゼフもうん、とだけ言ってうなずいた。
「ほぼ一月だね。君が休んだのは」
「ーそうでしたか。日数は見ておりませんでした」
「そうなのか」
ー親族が亡くなると、喪中で二年休むこともこの時代には普通だった。なので一月休んで出てきたのはかなり稀と言えるだろう。
「母が亡くなり、妹が城を抜け出し、僕の周りでは派手な動きがたくさん重なっていて正直困っている。ーこう短期間にいろいろなことがまとまって起こると」
ユーゼフは言った。
「君もお父上が亡くなったと聞いた時には驚いただろう?」
そうゴットフリートに尋ねたがーその質問にゴットフリートは少し顔を伏せる。
「養父でしたから…。病弱でもなかったのにどうしたのかとは思いましたが」
そう彼が答えると、ユーゼフは
「ああ…そうか」
と言い一通の書状を取り出した。
「確か実のお父上は辺境伯だったね」
ユーゼフが言った。ゴットフリートは顔色を失い、主君の手元を見た。
「殿下…ご存知だったのですか?」
「無断で悪いと思ったが、君の生い立ちを調べさせてもらった。ーお母上の侯爵夫人と合わせて。君はこの国に昔からいた人種ではないというじゃないか」
「すると今回ご面会くださったのは」
私にそれを知らせるためですか?ー不気味に感じながらそう尋ねたゴットフリートだが、ユーゼフはそれだけではないと言った。
「ー侯爵夫人の名で、母に薬の差し入れがあった。これは一度きりだけどね。それと、君が母の薬を調合しているらしいというのでその背景を知りたかったんだ」
「大公妃様にですか?ー私は誰からもその指示は受けていません」
ーゴットフリートは答えた。彼の回答を聞きユーゼフは、
「なら君もこの件では無関係だね」
と一言。ただユーゼフは、
「薬事庫の資材出納記録には君の名が複数あったので、しばらく薬事庫への立ち入りはやめてもらう。無罪と解ったら出入り禁止も取り消すけど」
と言いー
「ハルシュバウアー男爵のご世子は、君の弟だと聞いた。ー間違いないか?」
と再びゴットフリートに尋ねた。
「…はい、弟です」
5つ歳の違う父親違いの弟。その弟が養父の弟を継ぐことになっていた。
「ーそのフリードリヒ卿に、調合の指示を出したことはあるか?」
「ありませんが…なぜそれを?」
「…卿も薬事庫に出入りしているので、何か事情があったら聞かせてほしい」
ユーゼフの言葉にゴットフリートは少し考えこんだ。ーフリードリヒも薬事庫へ出入り?いつからそうしていたんだ。
「弟に聞いてみますが、私からは弟に何も指示は送っておりません」
「解った。それじゃ、次に移ろう」
ユーゼフはうなずいた。ーそのそばで侍従が紙に書き留めている。
「ー妹と話をしたいと言っていたが、その用件というのは何だ?」
「城の使用人です」
領地管理に行き詰まったので、これまで城で使っていた者は解雇しました。ーそう聞いてユーゼフは
「尋常じゃないね」
と言い、さらにこう告げた。
「使用人を変えたのは妹の意思だと思う。ーだがなぜそうなったか解るか?」
「いえ…何があったのですか?」
ゴットフリートが聞くと、ユーゼフは
「母親を殺されたからだ。ー祖父と後妻の連れてきた男に。君もそれに加わったと妹は思ってる」
と話したのだ。ゴットフリートも、この話を聞いて固まった。




