系譜
シャルロッテは男爵領にもう少しいたいというようなことを言っていたが、親戚でないことからイマヌエルに止められた。
「お気持ちは解りますが…。実のご親戚ではないので、もうお暇しましょう」
イマヌエルは言った、
「ー殿下には、他にお目通りいただきたい人がまだいるので」
「…何?急に」
シャルロッテは不服そうだった。
「その人たちのほうが、私にはお祖父様のお身内より重要だというの?」
「そのようにお考え頂いてもよいと、私は考えています」
実際お目通り頂いたら理由もご納得頂けるかと。ーイマヌエルは言うのだった。
「兄の領地へ連れて行ってくれると言っていたわね。ーあなたもしかして会ったことがあるの?」
シャルロッテはイマヌエルにそう尋ねた。
「ご本人にはお目通り頂けませんでしたがお子にでしたらあります」
「…子供が?兄は既婚者だったの?」
「ーそうです」
話すにつれイマヌエルの口調は重くなった。ーだが彼も教えてしまった以上は途中で話を切れないことに気づきそのまま話し続けた。
「ユーゼフ様から伺いました。ーご親友の恋人をあの方が奪ったとお考えのようですが実際は違います」
「…?」
シャルロッテはまだ不審がっている。だが、イマヌエルは話を止めようとはしなかった。
「お兄上はもう亡くなりましたが、お子はいらっしゃるのでお目にかけられます」
イマヌエルは言った。
「ですが、…シャルロッテ様のお命のために私はこうしているので、この話はお心の奥にしまっておいてください」
「すると、もう聞けないわけね」
「使用人の1人にでも聞かれてしまうと、大変なことになるのでご勘弁頂きたい」
「それほど重大なの?」
「重大です。ーシャルロッテ様もお兄上のお子も、それにお子のお母上も、命を落としかねない」
シャルロッテは少し視線を反らした。ー兄は死んだと聞いていたので、今になって自分に甥か姪かがいると言われても、彼女も急には受け付けられなかった。
「夕食は私の親とお摂り頂いて、明日の朝亡くなったお兄上のご領地へご案内します。お兄上のお子も、私の親がお預かりしているので」
ーイマヌエルは言った。
「ユーゼフ様のご親友だった侯爵ですが…、彼は身元がずっと不透明で彼がどこの出身か知られていませんでした。それに、私の父が侯爵の母上に見覚えがあると申しましたので調べ始めたのですが、そのせいで大公閣下もユーゼフ様も彼の婚約にはご反対でした」
「…その話は信じて大丈夫なの?」
やっとシャルロッテは言った。
「兄に子供がいるという話は」
「信じて頂いてよいと思います。ー異変がないようであれば」
イマヌエルは答えた。
「本日はもう動けませんが、明日の朝早く出て、お兄上のいらした城へご案内します」
城にいらっしゃれば、お兄上と結婚なさった方がどなただったかお解り頂けるはずです。ーイマヌエルは言った、
「侯爵と婚約していた女性をユーゼフ様がお取り上げになった理由も」
「今からではだめなの?兄の城へ向かうというのは」
「だいぶ距離があるので…今から向かったら到着が夜更けになってしまいます」
ーシャルロッテに聞かれ、イマヌエルは少し顔をしかめる。
「私も閣下に無理を言ってお休みを頂いて来たので、政務に戻らないといけません」
ですから本日は私とお戻りください。ー彼はシャルロッテに言った。
「兄の領地はどこだったの?」
最後にシャルロッテは尋ねた。
「ークレステンベルクです」
「クレステンベルク…!」
シャルロッテも息を呑んだ。




