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その花は天地の間に咲く 前編  作者: 檜崎 薫
第一部
45/96

祖父亡き後に

 シャルロッテを出迎えたのは、彼女とそう年の変わらない真面目そうな青年だった。

 「お夕食の時間にごめんなさいね。急いで確かめたいものがあって」

ーシャルロッテは言った。

 「祖父の旧領がこちらと聞いたので、ぜひ見せて頂きたくお邪魔しました。ーあなたが大叔父様のご嫡男?」

 「…いいえ」

青年は浮かない表情をしている。

 「私は侯爵家の次男です。ーこちらの家に跡取りがないと言われ、父から養子に出されました」

彼はそうシャルロッテに答えた、そして

 「系図とおっしゃいましたが、気になっていらっしゃるのはお父上のご系譜ではなくてですか?」

 「そちらを見たいわけではないのよ」

そうシャルロッテは言い、

 「私の母の、カリーナの系譜を見たかったの」

そう聞いて青年の表情はますます暗くなる。

シャルロッテの母親、シュスティンガー侯爵夫人カリーナ・ジークリンデ・フォン・シュスティンガー。大公の寵姫で、その際立った美貌で知られていた。

 「ーこちらにはないと思います」

 青年は言った。

 「こちらまでお越しいただいたのでお見せいたしますが、…気落ちなさるだけかと」

執事に声をかけ、青年は大きな巻物を持ってこさせた。

 「ーこちらが当家の系図です」

 「ありがとう」

シャルロッテは礼を言って、巻物を目の前に広げた。青年は執事をねぎらい下がらせる。

 「ー私は別室におりますので、ご用が済みましたらお声かけください」

執事はそう言うと控えの間に戻った。青年と2人になったところで、シャルロッテは話を切り出した。

 「男爵とお呼びするべきかしら」

 「恐れ入ります、殿下」

青年は静かに言った。

 「あなたのお祖父様が私には大叔父になるのよね」

 「殿下の大叔父様が私の祖父。ですか?」

青年は少し訝しそうだった。

 「大公のご子女と血縁関係にあるとは耳にしたことがありません」 

ー彼は言った。シャルロッテはそれに驚き、

 「…血がつながっていないと言いたいの?」

 「ーはい」

青年は重い声でそう言った。

 「探されるなら侯爵家に行かれた方がいいと父は言っておりました」

 シャルロッテは気分が暗くなった。ここへ来て収穫なしということが解ったため。だがこのまま手ぶらで帰る気になれず、とにかく系図を開き母親の名を探した。だが、やはり母親のカリーナは記録されていなかった。 

 「本当だわ。…お母様のお名前がない」

 「…祖父の話では、女官長と同じ名の家から大伯母が嫁いできたそうです」 

青年は言う。

 「それでは、…シュスティンガー侯爵家なら母の身元も解るかしら」

 「…系図をご確認頂ければ」  

ここでやっと青年に笑みが浮かんだ。 

 「ただ、時刻が時刻ですのでお帰り頂いた方がよろしいと思います。ーご婚約者に私の名でご連絡して構いませんか?」

宮廷中が殿下をお探ししているそうですし。ー青年はそうも言った。

 「そうね…」 

シャルロッテにも長居する理由はなくなってしまっていた。系図も見せてもらったからと彼女は帰ることにした。

 「殿下のご婚約者は、グランシェンツ伯で間違いないのですね?」

青年は確かめ、執事に取り次がせた。電話で話をすると、向こうも男爵領に向かっているそうで、

 「じきいらっしゃるはずです」

 「いろいろありがとう」

 「とんでもない」

最後は穏やかな空気になったが、ここで再び呼び鈴が鳴り侍女が玄関に行った。

 「私の婚約者がここへ来ていないか?」

青年の声。ー侍女が提示を求める前に、彼はシャルロッテが見せたものと同じ柄の紋章を差し出した。

 「プレグマイヤーだ。ー婚約者が男爵家を訪ねているのではと思ったのだが」

 「まあ…伯爵様!」

 浮かれながらも丁寧に対応する侍女。その様子にシャルロッテは少し残念がる。

 「公女様。お迎えの方が」

 「ーもう来たの?早すぎるわ」

舌打ちしそうな婚約者の声に、イマヌエルは苦笑いする。

 「これでも半日はかかりました」

 「半日…それは長いの?短いの?」 

 「あなたのお気持ち1つでしょうけど」

今日はもう終わりにしてください。ー嫌でも連れて帰るとイマヌエルは言う。

 「明日は兄上のご領地へお連れします」

 「兄のー?」

シャルロッテは聞き返したが、詳細は明日と言うとイマヌエルは黙ってしまった。

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