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その花は天地の間に咲く 前編  作者: 檜崎 薫
第一部
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解けない疑問

 「俺は殿下と話し終わったら宮廷から出るが、ーお前は侍女長に話を聞いて礼儀作法を習っておいてくれ」

 ゴットフリートは、列車を降りてからまずその話をした。

 「仕えるのは皇女でないかも知れない、俺も先がどうなるかまだ読めないんだが⋯あまり固くならなくても、他の侍女や女官に聞いて慣れてくれればいい」

 「解りました」

登城する日に親友の母親が死に、彼としても宮廷に人を紹介するのは気乗りしなかった。だが先に決めてしまったので手を引くこともできずーそのままペトロネラと一緒に宮廷に向かっていたのだが、ゴットフリートは正直複雑な気持ちだった。ー連れてくるのは良くなかったか?登城する最中に妃殿下の訃報を聞くことになるとはー。侍女が1人減るから紹介してくれと頼まれてはいたが、果たしてこれで良かったのか?

 駅から電話をつないでもらい、ユーゼフと話せると解ってゴットフリートは安心した。侍女にも人は欲しいらしいので連れて行って良かったらしい。ー新顔だと通夜などのない時の方がよほど慣れやすいのだが、そういうものが起こってしまった以上受け入れるほかない。

 「大奥様は確か、女官長を⋯?」

 「ああ、そのはずだ」

ーだが、母親の脳裏にあるものを知り、彼は戦慄することになる。大公妃が死去した今、宮廷で最高位の貴婦人はルドヴィカなのだ。普通の女官なら自分から喧嘩をふっかけようなどと考えたりしない。

 「妃殿下⋯、なぜ亡くなったのでしょう」 

ペトロネラは尋ねた。

 「ーさあな」

ー毒見した侍女が死んだことも、喪中のため彼には知らされなかった。さらにもう1つ。イマヌエルは婚約者を探していて政務に手が回っていない。

 馬車で半刻かけようやく宮廷に到着した。中はあれこれ騒がしく人気も多かった。 

 「閣下、よくお戻りに」

 「お待ちしておりました」

執事も侍従も、ゴットフリートを見て丁寧に礼をする。だが見慣れた顔が一つない。

 「ーグランシェンツ伯がいないな。休みでも取ったのか?」

 「はい」

執事は答えた。

 「シャルロッテ様をお探しに」

 「公女ーいなくなったのか」

 「はい。ー昨日からお姿がありません」

大変な時に来てしまったとゴットフリートは悔やんだがどうしようもなかった。親友と、ユーゼフと話せるのがいくらか彼には救いになったが、それでも胸の奥に支えが残った。

 「公女様は、お兄上のお式にも参列されないそうでして」 

 「すごい決心だな」

ーこれは皮肉で言ったのだった。腹違いとは言え、ユーゼフは兄でしかも嫡男。結婚式の参列を拒否するなどとなぜ口にできたのか。

 「今日は城から1人連れてきたんだが、誰に紹介したらいいか」

 「ただいま呼んで参ります。ーお待ちを」

 ゴットフリートの問いかけで執事は階段を登って行った。手前にある部屋の扉を叩くと中から小太りの女性が現れ、

 「何か?」

と一言。

 「ルドヴィカ様についてもらう侍女が」

 「ああ、解りました」

執事の話で女性は笑みを浮かべ、部屋を出てきた。

 「お連れしました」

ゴットフリートの前まで来ると執事は彼女を彼に引き合わせた。

 「あなたがまとめ役か?」

 「はい、閣下。ー新入りはこちらのお嬢さんですの?」

女性はペトロネラの方を見遣って言った。

 「ああ。ー気立てもいいし憶えが早いから、可愛がってやってくれ」

 「解りました。ありがとうございます」

ようこそ。ー女性の笑顔にペトロネラの心も軽くなった。 

 「私は侍女長のヘンリエッテ。よろしくね」

 「ペトロネラです。よろしくお願いします」

 ヘンリエッテは、ペトロネラを連れ宮殿の2階へ向かった。使用人の居住区画や主人の部屋などを説明するため。その様子を見届けゴットフリートは執務室へ向かった。

 「女官長とも話したいんだが、時間は空いているだろうか」

 「確認でき次第お伝えします」

執事の回答。育ての親が死んだことを母親に伝え忘れていて、それがゴットフリートには心残りだった。ー相棒のイマヌエルが休みのため兵営にもすぐ行かれそうにないが、まず当面の用事をこなさなければならない。

 


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