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その花は天地の間に咲く  作者: 檜崎 薫
第一部
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知られざる事実

 結婚前に他の男と会うーこれは本来なら歓迎されないことなのだが、ルドヴィカは、自分の幼馴染が兄を探していると知っていたので、伯父にも知らせたうえで彼に会うため伯父の領地へ向かった。幼馴染と彼の母親に会うためだった。ルドヴィカは覚悟を決めていた。もし最初の婚約者が幼馴染の兄だったのなら、これまで自分の感じてきた違和感にも全て納得できる。それでルドヴィカは伯父の城へ行くことを決めたのだ。もっとも、侍女や世話係は女主人の動きに渋い顔をしていたが、それに構ってはいられなかった。

 「ご自身で会いに行かれるのですかー誰かをお遣わしになったらいいのに」

 「私自身でなければ聞けないのよ」

ー侍女たちにそれだけ言うと、ルドヴィカは家族に挨拶を済ませ馬車に乗り込んだ。

 既に調べはついているので、彼女はそれを早く幼馴染に知らせたかった。婚約者だったゴットフリートー彼の戸籍について、彼女はユーゼフを通じイマヌエルに調べてもらっていた。すると妙なことが解ったのだ。母親の侯爵夫人も本人もスラブ語名とゲルマン語名2つを使い分けているらしい。夫人が先妻を追いやってその地位についたことも解った。イマヌエルの調べでは、夫人はジナイーダという名だが、現在はアストリットと名乗っているということだった。ゴットフリートは

 「スラブ語だとミロスラフで、現在使っている名がゴットフリートということのようですね」

ということらしい。またイマヌエルは、

 「侯爵夫人ですが、辺境伯に嫁いでいた時はエスターと名乗っていたようです」

とも彼はユーゼフに伝えた。ユーゼフはその話を受け、

 「けっこう重大な話だな」

と言った。ーすぐルイーザに知らせてくれ。ユーゼフは言って、自分の名でルドヴィカのところへ調査結果を送った。その調査結果をルドヴィカは自分の幼馴染に見せるのだ。

 輿入れの馬車には、道具も衣装関係も全て載せてあった。後はルドヴィカが乗り込めばすぐ出発できたのだが、自分の護衛としても幼馴染に手を借りる必要があった。何より、舞踏会で一緒に踊った時のゴットフリートの言葉ー

 『辺境伯のご子息には頼まなかったのですか』

これがルドヴィカを不審がらせた。ーこれを聞いた時、彼は自分の幼馴染を知っていると彼女は直感したのだ。誰に舞踏の練習相手を頼んだか、それをゴットフリートは聞こうとしていたのだが、辺境伯に相当する位は彼やユーゼフの国にはない。そこからユーゼフもルドヴィカもゴットフリートの身元に疑問を抱き始めたのだった。

 『僕の方で調べて連絡するから、それまで待っていて』

 ルドヴィカがユーゼフと話をすると、彼はそう言った。ゴットフリートの他にも腹心がいるのでその腹心に調査させるのだという。ルドヴィカは来る準備だけしてくれたらいいともユーゼフは言っていた。

 ー全てはこれからだわ。そうルドヴィカは感じていた。幼馴染を動かして、彼に自分と一緒に行ってもらおう。彼女はそう考えた。幼馴染の若者は3つで父親と死別していた。

だがあまりいい思い出がなかったらしく彼はほとんど父親のことを話さない。それだけでなく、この若者には少し不可思議なところがあった。何をしていても途中で動きを止め、水浴びに行くらしい。それというのも血液が下半身に集中し、落ち着かないからだとー。ルドヴィカはその話を聞いた時、幼馴染には人に言えない何かがあるのだと悟った。もしそれが父親を亡くした時の出来事から来たとすれば、兄と再会させたら、幼馴染の抱えているものもいくらか軽くなるとルドヴィカは思った。ーが、そこまで考えて彼女ははっとした。

 「嫌だ、私ったら何考えて…」 

これから自分は隣国の公子に嫁ぐのではないか。それも自分から行かせてくれと父親に、皇帝に頼んだではないか。ーなぜここへ来て幼馴染を気にするのか、ルドヴィカは自分で自分が解らなくなった。

 既に伯父のところへは自分が向かうことを伝えてある。だが、自分の幼馴染は果たして自分と会う気になるだろうかー5年は会っていないから、前ほど打ち解けて話せないかも知れない。何より兄の話を聞かされて本人が嬉しいかどうかーそういう不安もあることはあった。だがユーゼフとの約束もあったから何とか兄と会ってもらわないといけない。

 ルドヴィカの幼馴染はフェルディナンドと呼ばれていたが、本当は違うらしい。それも幼馴染に会って聞くしかない。だがその前に彼に兄のことをーゴットフリートの弟ならー話さなくてはならない。イマヌエルに調べてもらった時点で、話して喜ばれる内容でないことが解ってしまったのだが、ルドヴィカとしては黙っているわけにもいかなかった。

 「…思い切ってフェランに全部話そう」

 フェラン。フェルディナンド。ー彼女より2つ下の青年で、伯父の養子だった。今ではやり取りもなくなったがさすがに嫌われてはいないだろうー。ルドヴィカはそう考え直しユーゼフの送ってくれた調査結果を見直した。

 

 

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