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その花は天地の間に咲く 前編  作者: 檜崎 薫
第一部
39/96

胸騒ぎ

 シュスティンガー侯爵夫人とハフシェンコ伯爵夫人、この二人はかつて義姉妹の関係にあった。侯爵夫人の最初に嫁いだ家、それが伯爵夫人の実家だったからだ。カハストルツ侯爵家ーかつてアステンブリヤの南にあった小さな公国の分家がそれだ。

 すぐ下の王国が滅ぼされ本家が巻き添えで没落すると、カテルイコフ伯爵家と一緒に、祖国脱出の道を選んだ。ー伯爵家はそのままロッセラーナへ投降、侯爵家は隣国へ亡命しそこからロッセラーナと縁を結ぶ。そうして彼らの地盤は固まった。

 さて、伯爵夫人は義姉のもとへ急ぎ相談に行ったが、途中2人の青年と出会った。

 「ずいぶんお急ぎですね、どうしました?」

 「ええ、…女官長のところへ」

 「確かルーフバルコニーで見ました」

 「まあ。ーありがとうございます」

青年に教えてもらい伯爵夫人はバルコニーへ向かった、だが青年の1人が眼帯をしていたのに夫人は気づかなかった。その隣は金髪に緑の瞳ーフェルディナンドだった。

 「ーその紙には何が?」

 イマヌエルは伯爵夫人に尋ねた、

 「私の口からは申せません」

伯爵夫人がそう言うのでイマヌエルはさらに不安になった。

 「何か気になるのか?」

フェルディナンドは問い掛ける。

 「女性の名前が見えた」

 「女性の…?」 

イマヌエルが目にしたのは、シャルロッテの

名を綴る最後の4文字、"otte" だった。

 「気のせいじゃないか」

フェルディナンドは言ったが、宮廷で彼女と同じ綴りを持つ女性はいない。ー何かを俺に隠している…?イマヌエルは不安に駆られた。

 「後で聞いてみたらいい」

 「ーそうだな」

少し後ろめたさを感じながらも、伯爵夫人は義姉を探しに行った。

 ルーフバルコニーの先端、その手前の側に探している人はいた。シュスティンガー侯爵夫人、国境守備隊長の母親。彼女を見つけると、伯爵夫人は駆け寄った。 

 「義姉様!!」

 義妹の表情に侯爵夫人は顔をしかめた。

 「何よ、ーそう真っ青になって」

愛人に夫を殺された彼女には、大抵のことは軽く思えた。

 「大変なことが解ったの」

 「何がどう大変なの?」

ーユーゼフから渡された紙を伯爵夫人は取り出したが、彼女の義姉は何か受け流すような表情をしていた。

 「ついに来たわね」

 「…『ついに』?」

義姉の言葉に伯爵夫人は少し平静になった。

 「私はずっと思っていたのよ。いつかこういうことになるのではないかと」

予感だけだから何も言えなかったのだけど。ーそう侯爵夫人は言った。

 「相手が相手だから、証拠なしに咎め立てできないでしょう?…あれこれ詮索する訳にもいかないし」

 「では、…予兆はあったのね?」

 「あったわよ。ー皇女が来た頃から」

侯爵夫人は言う。

 「私を朝見かけたらそこは母親の部屋だと言い、皇女には挨拶して早々に義姉様と呼ばせてくれと言いーこの前は、あの青年が兄や婚約者と話す様子を見て『私も混じりたい』ですって。…まあ、何と言っていいか」

 「…あのシャルロッテ様が?」

 「そうよ。考えられないでしょう?あれでどれだけの若者を落としてきたか」

ー目をくらまされた男は相当数いるだろうと言うのだった。

 「…この先には嵐が待っているかも知れないわね」

そう言うと侯爵夫人は深くため息をついた。

 「避けられないの?その嵐というのは」

ハフシェンコ伯爵夫人は言った、

 「策もあるはあるけれど犠牲がいるわよ。ーやり遂げる覚悟ある?」

 「聞かせるだけ聞かせて」

義姉に尋ねられ、夫人はやっとそう言ったのだった。

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