亀裂
妹が見つかったことでユーゼフは胸をなでおろした、だが式には出ないと言われたため違和感を覚えた。ー新郎の妹が参列しない?祝福したくなかったのか。ーユーゼフはそのことをルドヴィカに話すかどうか迷った。
婚約者の顔色が冴えないのでルドヴィカは2人きりの時に尋ねてみた。ユーゼフは声をかけられやっと伝える勇気ができた。
「ユーゼフ様。…何かご病気でも?」
「いや。ーそうじゃないんだ」
彼は言った。
「驚かないでくれ。ー妹のシャルロッテが参列したくないと言っている」
ルドヴィカはそれを聞いて、
「…参列したくない?」
と言い、一瞬間を置いて
「ご冗談ではありませんの?それかお疲れだったとか」
「疲れたからと言って祝い事や不幸をそう欠席する子でもないよ」
「…前はそういうふうに見えませんでしたわ。前触れはありませんでしたの?」
「ーなかったと思う」
シャルロッテが結婚式を蹴ったという話はまたたく間に宮廷に広まった。女官の誰もが顔色を曇らせ、その噂をしたからだ。
「シャルロッテ様…ご欠席ですって?」
「まあ。どのようなご事情が…」
シャルロッテには不本意だった。ー彼女にとって不本意以外の何でもなかったが、そうしなければならない理由が彼女にはあった。義姉の連れてきた青年ーシャルロッテは彼に惹かれたのだ。だが自分に婚約者もいる身で彼女は近づくことができなかった。
「あの貴公子はどなた?」
シャルロッテは侍女に言った、
「私は存じません。ーお許しください」
婚約者のいる女主人に異性のことを話すのは皆控えた、だが彼女は諦めない。思い切って義姉に尋ねようとしたら、彼女はユーゼフにそれを見咎められた。
「どうしたんだ。ー君は婚約者がいるのに他の男が気になるのか」
「だって、…あまり美男子なのですもの」
「それは解らなくないが、浮気するだけの余裕があるのか?ー破綻しても知らないぞ」
ユーゼフは言う。そう言われシャルロッテは兄に反感を持った。ー自分は友人の婚約者を取り上げて私に説教を?それでも何がもとでそうなったかシャルロッテは知らない。
「誰かあの人を連れてきてくれない?一度お話ししてみたい」
「それはできませんわ、シャルロッテ様。ご婚約者様がおいでになるのに」
「一度だけ、一度だけよ」
ーだが皆がその役を辞退した。不義や不倫を君主の娘に教えてどういう良いことがあるというのか。やがてその話は、彼女の兄であるユーゼフの耳にまで届いた。
「だめか…いったい何が不満なんだ」
国で一番いい家柄に生まれた誠実で思慮深い貴公子。シャルロッテがいるため、他のどの女性も彼と並んで歩くことはできなかった。
「殿下、…何かお困りですか?」
さすがにイマヌエル本人にこの話を聞かせるわけにいかずユーゼフは悩んでいた。
「私が聞いてみましょうか?」
そう言ったのはハフシェンコ伯爵夫人。この人はルドヴィカとフェルディナンドの共通の知人だった。ユーゼフから紙に書いて渡され彼女が青くなったのは言うまでもない。
『自分はルドヴィカ皇女の護衛で、もとは彼女の許嫁でした』
そう夫人に言っていたフェルディナンドが、よその国の公女になびくはずがない。自分に誘いが来たら、この国はこうも簡単に夫婦の約束を破るのかと軽蔑して帰ることだろう。
それだけは何としても避けたかった。
「女官長と話してみます」
そう言うと、伯爵夫人は執務室から女官長の侯爵夫人のもとへ急いだ。




