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その花は天地の間に咲く 前編  作者: 檜崎 薫
第一部
34/96

失踪

 ー傍系皇族がやって来る。予告なしでこの国へ。ー話を聞いたルドヴィカは暗澹とした気持ちになった。

 『お心あたりがあるのですか?』

ーフェルディナンドにそう聞かれたのだが、心当たりどころではなかった。最初の婚約もユーゼフとの婚約も持ち込んだのはどちらも同じ人物。それはアレッシオの父親、つまり先代公爵だった。息子が成人したため表向き家督は譲っているが、アステンブリヤ家ではこの人が全て握っていると言っていい。

 「…電報の宛名はやはり卿でしたの?」

 ルドヴィカは婚約者に尋ねた。ユーゼフは

 「うん」

とこちらも同じ表情でうなずいた。

 「来客はもてなさないといけない。ーただ予告なしに来られるとさすがに気分が悪い。今はこの状況だし」

ー母親の大公妃が病床にある。それを指してユーゼフはそう言ったのだった。

 「伯爵夫人のおかげで私たちも知ることはできましたけれど、…いい気がいたしません」

 「ー確かにそうだね。電報の内容は警報に近かった」

何があったんだろう?ーユーゼフは言った。

 「…姉に聞いてみましょうか」

 「そうしてくれ」

外交官の地位にないためフェルディナンドに送る形にしたのだろうとルドヴィカは考えていた。だが、マルゲリータが何を見たのか、それを知らないことには公爵がなぜ来るのか解らないのだった。

 ー姉と連絡を取るためルドヴィカは母国に手紙を送った。フェルディナンドと会いたいとあったが、その理由はいったい何なのか。

姉がどう言っていたのか、差出人に返信してみるとー


 〔殿下の幼馴染でいらっしゃる方に公爵は強い反発をお持ちで、卿に礼儀を教えるとも卿を連れ帰るともおおせになったそうです。おそらく、数日もしくは当日中に帰国の途につかれるご予定だったのだと思われますが、私どもはもちろん殿下のお姉上様も、公爵が出国許可をお取りになったとは一度も聞いておりません。公爵をお見かけになりましたら軽い対話などをなさって任地へお帰し遊ばすのが妥当のように存じます。〕

 

 「任務を離れてまでする必要が…?」

 「なぜそれをなさりたいのか私にはまるで解りません…なぜでしょう?」

突然の傍系皇族来訪にユーゼフも真意を計りかねている。ーフェルディナンドは、

 「ー礼儀を教える…どういう基準なんだ」

とこぼしていたが、連れ帰ると聞いた時には何か不吉なものを感じた。ー俺だと力不足だと言いたいのか。もともと護衛騎士の役目も引き受けて来たんだが…。それでまた彼にこの一族への反感が芽生えた。

 ユーゼフとルドヴィカの婚約期間が半ばを過ぎ、宮廷では結婚準備や調度の手入れなどせわしなく動いている。衣装の新調も部屋の整理も居住区画の見直しもありー。その中でユーゼフは執務を少し棚上げし始めた。その様子に気づいた侍従たちは彼に近寄り小声で理由を聞いた。するとユーゼフは言った。

 「妹の姿が見当たらない。手分けして皆で探してくれ」

新郎の妹が消えた!?ーそれがもとで宮廷は急に騒がしくなった。 

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