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その花は天地の間に咲く 前編  作者: 檜崎 薫
第一部
31/96

宿敵

 アステンブリヤ家ーアステンブリヤ公爵家というのが正式な家名だが、この家の人々は廃太子の子孫と蔑まれ、ロッセラーナでその家名を重んじるものもいなかった。皇太子が妃の実家を滅ぼし、母親だった女帝の怒りを買って廃嫡されたため、彼の子孫はこの名で呼び表されるようになったのだ。妃の実家は貴族ではなく、同盟国の王家だった。それが女帝の激怒したゆえんだ。皇太后は若い頃にこの家の跡継ぎと恋仲にあったため、長男の嫁に取ろうと決めたーだが長男が女帝と縁のあったサヴァスキータ侯爵家から妃を選び、皇太后は次男をこの家と縁組みさせた。だが摂政大公と奥方との仲は良くなかった。

 差出人はファウーダ伯爵夫人。彼女の名はカリーナ・ディ・ヴィラ=フランカといい、マルゲリータの親友だという。この女性が、電報で急を知らせてきたのだった。

 伯爵夫人はこう言ってきた。

 

 〔皇女殿下からのお言付けです。


 アレッシオ3世閣下がそちらへ向かわれたとのこと、どうかご身辺にご留意ください。閣下がご単独で動かれたと私どもは殿下より伺っておりますが、そのご性分から、閣下がどのようなことを謀っておいでなのか当方もつかめておりません。

 殿下のお言付けによりますと、閣下は卿にご対面なさりたいご意思がおありだそうで、卿がルドヴィカ様にご同行なさったことから卿へのご反発が高じて閣下もご出発なさったとのことです。差し出がましいようですが、細心のご注意をおはかり頂きたく、取り急ぎご連絡申し上げました。


 

 カリーナ・ディ・ヴィラ=フランカ

 ファウーダ伯爵夫人〕


 「電報は私にだけ?」

 フェルディナンドは尋ねた。 

 「そういえば、」

ユーゼフが言った、

 「その家名で電報が来ていた」

 「…アステンブリヤ家から?」

ルドヴィカが尋ねるとユーゼフはうなずき

 「読んでおくべきだったか」

と呟く。フェルディナンドには、

 「内容を聞いて構わないか?」

と言ったが、

 「私を追ってくるとしかありません」

と、フェルディナンドは電報を彼に渡した。その電報を見て、ユーゼフは

 「…頭痛の種が増えた」

と一言呟いた。ー警備を厳重にしてくれ、と侍従に告げ、ユーゼフはルドヴィカとともに執務室へ向かった。アステンブリヤ家からの電報を彼は探し始めたのだが、それは当主を穏便に帰してほしいという文面で、2人とも何やら嫌な予感がしてきた。

 「ご自身のご都合だけで来られる方にそこまでしないといけませんの?」

 「…ここは悩むところだな。彼も貴族に違いないから、丁重に扱うつもりではいるが」

 「それで十分だと思いますわ。行き帰りはご自身で動いて頂いたほうが…」

 エンリコと同じ公爵の肩書だが、人となり物言いとも父親に似て傲岸なため彼はあまり貴婦人に人気がない。皇太子は、叔母の強い勧めで彼の姉と婚約したが、妹と許嫁だったフェルディナンドを父親にさらって行かせた

と知り彼女との婚約は反故にしていた。その直後、皇太子は都へ帰る途中に賊に遭い命を落とす。5年経った今もその賊は見つかっていないが、都で噂されているのは、おそらくアステンブリヤ家の息のかかった者だろうということだった。

 ーわざわざ俺を追って出てくるというのが解らない。会ってどうするんだ?ー公爵家に拉致された過去もあり、フェルディナンドはこの家の名を聞くだけで悪寒を覚えた。だが相手の目指すところはやはり彼にも解らないのだった。


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