公女からの誘い
〔男に受けた傷は男で癒やす〕ーこれは何を指しているかと言うと、恋から生じた傷は、恋でしか治せないというものだった。つまり恋による傷は次の恋を見つけない限りは治らない、もっと言えば、新しい恋人ができない限り治ることがないというのだ。だが執事は自分の娘が中絶までさせられていたと知り、何と言っていいか解らなかった。
『だからついてくるなと私は…』
娘のペトロネラに執事は言った。
『お前をこんな目に遭わせて、母さんにどう詫びていいか解らない』
『だって、好きになってしまったんだもの』
そうペトロネラは言ったが、相手が悪すぎると執事は娘を叱った。
『他に相手はいなかったのか。貴族じゃなく庶民や農民の中に』
『解らない』
『相手が貴族じゃどうしようもないーお前に手をつけて終わりだろう。こちらは娘の身に何かあっても泣き寝入りするほかない』
そう言われペトロネラは泣き出した。だが、その会話をを立ち聞きした者がいる。主人である老侯爵の孫娘、つまりシャルロッテだった。
10を過ぎた頃から、シャルロッテは異変を感じていた。自分が聞いたことのない言語で母親と兄が会話している。それで周りに人がいない時シャルロッテは執事に尋ねた。
『最近お母様もお兄様も知らない言葉で話すの。2人の話す内容が解らない。ーいったい何があったの?』
『ー別の方々です』
シャルロッテの言葉に執事は言った。
『お祖父様が母親の方を気に入られて。その親子をお呼び入れなすったのです』
『私のお母様やお兄様は?』
シャルロッテは尋ねたーその問いに執事は、
『私も存じませんー残念ながら』
あなた様もいらっしゃるので私はお祖父様をお止めしたのですが…。ーそう、執事は彼女に言うのだった。
『休暇を頂き戻って参りましたらこうなっておりました』
『すると、私の家族はここにいないー』
シャルロッテは呆然とした。それから執事に
父親はこれを知っているのかと尋ねた。
『ご存じだと思います』
あなた様がお父上とお過ごしになれるよう、私からお話ししてみましょうか?ー執事から提案を聞き、シャルロッテもそうしてほしいと頼んだ。そして彼女は父親や異母兄の住む宮殿に移ったのだった。
『母も兄も死なせて済まなかった』
娘のお前を祖父の城で一人にしてしまって。ーそう大公は彼女に詫びた。
『お父様もご存知だったのねー』
シャルロッテは泣いたが、
『これからはもう悲しい思いはさせん』
そうも大公は語った。ー妻や息子に先立たれ跡取りがほしかったそうだ。だからといって娘も孫も殺すのかーシャルロッテは反感さえ祖父に抱いたのだが、その頃はまだ殺意まで持っていなかった。だが、祖父の再婚相手が祖父に息子を産んだこと、再婚相手が自分の愛人を連れ込んでいたことを知り彼女の中に怒りが沸き起こってきた。ーお兄様が成人しさえすれば跡を継げたのにーそこから彼女は強い殺意を祖父に抱くようになる。そしてある日彼女はそれを実行した。異母兄の親友が研究している毒草の主成分を使って、シャルロッテは祖父を毒殺したのだ。トリカブトの溶液を水に混ぜそれを彼女は祖父に渡した。後はユーゼフの濡れ衣をどう脱がせるかだがそれにはまだ時間がかかりそうだった。いやこのままにしておこうか。ーシャルロッテは後者を選んだ。




