陰日向なく
公女シャルロッテ。ー彼女の正式な名は、シャルロッテ・ツェツィーリエ・フォン・スタンハウゼン=ハプルシコーフェン。兄弟が少ないので、異母兄のユーゼフと共同統治で国を治めることになっている。だが、実際は兄の何倍も観察力のある少女だった。18にはなるのだから、少女と呼ぶべきではないかも知れない。とにかく、彼女は優れた観察力の持ち主だった。
ー自分がシャルロッテに監視されていると知ったゴットフリートは、ペトロネラに話を聞き、彼女にー公女であるシャルロッテにー相談を持ちかけることを思いついた。彼女が使用人を替えたのでないなら、彼女の権限を狩りて、入れ直してもらうこともできるはずだ。そうゴットフリートは考えたのだ。だがなぜ自分のいる城にペトロネラが残されたか彼は知らなかった。
ゴットフリートが喪中で領地にいると伝え聞いたシャルロッテは、本当に?という顔をした。
「あの人にも変わった所があるのねー実の祖父ではないのに」
シャルロッテの言葉にルドヴィカがどういう意味か尋ねると。
「爵位や領地は継いでも、血のつながりはないのよ」
それにーシャルロッテは話を続ける。
「もともと引き取るつもりはなかったのに引き取ってしまったから」
シャルロッテの話はかなり意味ありげで、居合わせた者全員にその耳をそばだたせた。とりわけフェルディナンドは身を乗り出して聞いていた。異母兄が幼馴染に求婚していたということもあって。だがユーゼフだけは、その輪に加わろうとしなかった。
「ロッテ…」
ユーゼフは言った、
「その話はここでしないように君に頼んだはずだが?」
なぜその話が今出てくるんだ。ー彼は珍しく不機嫌そうだった。だがシャルロッテは兄の声を聞き入れなかった。
「大事なお話なのよ。お兄様」
ひょっとしたら、彼の動き次第で国の暗部を暴けるかも知れない。ーそうシャルロッテは言うのだ。
シャルロッテも、おそらくイマヌエルも、ユーゼフの周りで聞こえる泣き声を彼が手をつけたためと思ってはいない。だが彼のすぐそばで起きているのは確かだった。なので、兄の汚名を晴らしたいと考えていたのだが、その兄自身が乗り気でないのは彼女にもどうしようもなかった。
ーいいわ。私にも考えがある。兄の汚名は国全体の汚名だ。なのでシャルロッテも引くわけにいかなかった。ーどうしてもここでは話せないなら、あの子の手を借りよう。そう彼女は決意した。あの子とは誰かーもちろんペトロネラだ。幼い頃に過ごした家で彼女の父親が執事をしていた。そして、執事の娘のペトロネラがゴットフリートに恋をしていることもシャルロッテは知っていた。娘が男の手つきになって執事が苦しんでいたことも。
『恨みは私が晴らしてあげるわ』
シャルロッテは執事に言った、
『その代わり、娘を貸してちょうだい』
悪いようにはしないとシャルロッテは言いー
ゴットフリートのそばに娘を残すよう執事に命じたのだ。
『娘はやっと20歳です』
執事は言う。ーこの上さらに傷がついたら、娘はどうなりましょう?執事の言葉を聞いてシャルロッテは大丈夫だと答えた。
『生まれた子は私が引き取るわ。それに、侯爵にしたって、…もとの相手とよりを戻せるはずないもの』
皇女と結婚する資格をゴットフリートが持ち続けられるはずがない。彼の母親とつるんでいた男、その男の性質や根の暗さから彼女は2人が別れるしかないとーゴットフリートもルドヴィカとは離れるほかなくなるとーそう見抜いていた。
『なぜそのご確信がおありなのですか?』
執事も聞かずにいられなかった。
『あなたの娘に手を出したのが侯爵夫人の愛人だったからよ』
その同じ男が兄の護衛もしているから、私も動かずにいられない。ーシャルロッテはそう執事に言った。こうしてペトロネラは父親と別れゴットフリートと過ごすことになった。




