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その花は天地の間に咲く 前編  作者: 檜崎 薫
第一部
20/96

呼び出し

 「ユーゼフ様が、今晩お会いになりたいとおっしゃっておられます」

執事がそう侯爵夫人に言ったのは、ちょうど侍女があがり始めた頃だった。

 「お母君へのご投薬でも、殿下はあなたに疑問を抱いておられ…」

 「ご指名は解ったけれど…私は薬事にまでは手を出していませんよ」

どういうことなの?ー侯爵夫人も毒を持ったと疑われ面白くなさそうだ。

 「あなたのご指示で薬を差し入れたという方がいらっしゃったので」

 「とんだとばっちりだわ。ーいったい誰がそのような…」

 「であれば、その件は無関係と申し上げておきましょう。ですがー」

執事は言を継いだ。

 「お呼び出しには応じないといけないのね?」

 「ーお願いいたします」

 執事は丁重に頭を下げた、侍女は驚き彼の顔を見た。

 「殿下からお直々にとはどういうー?」

 「今に解ります」

執事もそれだけしか言わなかった。

 寝具の準備を一旦やめさせ、入浴の支度をさせる。ー終わると侯爵夫人はデイドレスに再び袖を通した。

 「本当にいかれるのですか、奥方様」

 「行くしかないでしょう?ー何と言っても主君のお呼び出しなのだから」

なんとなく理由は読めた。食事会で着ていたドレスが、公女シャルロッテやルドヴィカに話題にされたことや、執務室のある棟に絵がかかっていることなどから。ードレスも絵も自分の本意ではないが、情夫が名を売り出すためと自分の名で買い込んだのだろう。

 「あの男と関わりさえしなければ…」

今は彼女にもため息しか出なかった。

 日の落ちる前に侯爵夫人は執務室に着いたが、そこには、ユーゼフの他に眼帯を着けた青年がいる。ーイマヌエルだった。

 「伯爵ーなぜここに」

そう尋ねると、彼は静かにこう切り出した。

 「あなたもご子息もこの国に昔からいた方々と私は見ておりました。ーそれが違うと判明しましたので」 

そう言って、一枚の紙を彼は侯爵夫人に差し出す。

 「どちらがお2人のご本名ですか?お答えいただきたい。ー場合によっては追放という荒療治に出ないといけませんがーそこまではいかずに済むことを我々は願っております」

紙にあったのは2つの名前ースラヴ語の名とゲルマン語の名。侯爵夫人はこれを見て息を呑んだ。

 「これが、これがなぜこうして…」  

 「するとあなたはご存じないのですね?」

イマヌエルは言った、

 「こちらに来る時にスラブ語の名は捨てておりましたから」

彼に対する侯爵夫人の答えだ。

 「息子に名乗らせたのは何かあったらその地へ帰れるようにと」

血縁はありませんが言葉だけは話せるように教えました。ー侯爵夫人は言った。

 「もともとはあちらの出身なんだね」

 ユーゼフが尋ねると彼女は答えた。

 「はい、殿下」

 「ー国を捨てたきっかけは?」

ー侯爵夫人は言った。

 「情夫の子を身ごもったからですー夫との子ではなく」


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