入国
国境には大きな跳ね橋がかかり、単独では下ろせないように、厳重に閉められている。両側に銃を手にした衛兵が立ち、無断通行を食い止めるため川の両岸に塔も建っている。
エンリコが通行許可証を提示すると、衛兵は乗員や護衛騎士の氏名、車載品などを確かめ跳ね橋を下ろさせた。反対側から軍服と銃を手に貴族と思しき青年がやって来たが、彼は衛兵から話を聞くと後ろの兵を解散させた。
「お初にお目通りいたします」
青年は丁寧に会釈した。
「スタンハウゼン公国執政代理イマヌエル・ディートリヒ・フォン・プレグマイヤーです。ご乗車はルドヴィカ・レオノーラ殿下で間違いございませんか?」
「間違いありません」
「ロッセラーナ帝国首席外交官エンリコ・エマヌエーレ、皇帝ベルナルド・セヴェーロ息女ルドヴィカ・レオノーラを貴国公子ユーゼフ・ブルクハルト殿下のお妃にお連れいたしました」
「お待ちしておりました。お通りください」
馬車は国境を通過し、皇女を乗せて公国に無事到着した。ここでエンリコは文書を取り出しイマヌエルに差し出し、そのついでに
「皇女が殿下にご紹介したいと申し出ているのですが、…殿下はご存じでしょうか?」
と尋ねた。ーイマヌエルは言った、
「シュスティンガー侯爵の件ですね。面会を心待ちにしていましたのでぜひお引き合わせ頂きたい」
直々に面会させます。ー公子と直接会わせるという意味だ。
「ー承知しました」
エンリコもそれを聞くとフェルディナンドを呼んで
「君の出番だ」
と言い、イマヌエルの前へやって来させた。
「彼が皇女の紹介を受けた若者です」
エンリコの紹介の後で、フェルディナンドは静かに礼をした。
「フェルディナンド・ディ・カラヴァッシア、サヴァスキータ侯爵カミロ・アルベルト世子です。お目通りかない光栄」
「プレグマイヤー家当主イマヌエル・ディートリヒです。お見知り置きください」
2人が自己紹介し終わるとイマヌエルは彼に言った、
「すぐにもお話を伺いたいそうなので、直接執務室へご案内します」
「…私だけ執務室ですか?」
フェルディナンドは驚いた。そして言った。
「他の護衛騎士はどうなるのでしょう」
「彼らは1日ご宿泊いただいて、その後駅にお送りいたします。ー侯爵本人は喪中のため休職していますが、機密事項なので」
「…そういうことでしたか」
ー兄の消息が機密事項と知り、また公子と直接に会うことになり、フェルディナンドは驚いている。イマヌエルは彼を執事のもとへ引き合わせると馬車列へ戻った。ー馬車列が解かれ、そのそばへ荷袋を積んだ馬が何頭も牽かれてきた。
飾り付きの毛並みの良い馬が先頭の馬車の前にやって来た。馬を牽いてきた騎士は、
「皇女殿下をこちらへ」
と言い皇女を降ろすようエンリコに頼んだ。
「ー殿下、到着いたしました」
御者が馬車の扉を開けると、従兄に手を借りルドヴィカは馬車から降りた。
「ありがとう」
周りを見渡しながら彼女は軽くうなずいた、だが幼馴染が自分を探して振り返ったのには気づかなかった。




