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その花は天地の間に咲く 前編  作者: 檜崎 薫
第一部
14/96

因縁

 摂政大公の妃クラリッサ・アンジェリーナ、彼女の実家アステンブリヤ家は現皇帝の遠縁にあたる。だが、この一族は、廃太子の子孫として代々蔑まれてきた。妃に選ばれた隣国の王女を連れ戻すはずが罠にはめられ、連れ戻すどころか、王女の母国を滅亡に追い込んだのだ。

 先帝が世継ぎを残さずに死去、先帝の妹が夫ともに国政を切り盛りしていた。兄と夫が亡くなると、未亡人となった皇女は遺された子どもたちを女手一つで育て上げた。そして長男が年頃になると妃候補選びが始まった、だがこの人は恐ろしい女狂いだった。身分を問わず若い娘に手を出し、私生児を産ませているというもっぱらの噂で、執務室はおろか宮殿にいたためしがないという。この娘ならと清楚で従順な隣国の王女を妃に定めたが、王宮に愛人を連れ込まれたと王女から離縁を求められていた。

 母親に呼び出された皇太子は女帝に事情を話すのだが、

 『あまりいたいけで触れる気になれぬ』

と彼のいったことが逆鱗に触れ、そのために皇太子は謹慎を命じられた。さらに妃選びをやり直すために親交の深い女性を教えよと。その中には、もう一人王家の血を引く女性がいた。オリガ・アレクセイエヴナ。この人が皇太子の本命で、スタンハウゼンの西にあるアステンブリヤ大公国が彼女の母国だった。オリガは皇太子に囁く。

 『自分は身を引くからジャニスを連れ戻しに行きなさい』

軍は無償で貸すという彼女の言葉に皇太子は乗ってしまった。ーだがこれはオリガたちの仕組んだ罠で、肥沃な平野と豊富な資源とを持つ隣国を滅ぼそうとオリガの両親は考えていたのだった。

 父王の親友だった辺境伯のもとに婚約者のジャニスは身を寄せていた。彼女は女帝から離縁の許しも得て、辺境伯の跡継ぎと結婚し既に人妻だった。それに皇太子は怒りを覚え妻を返せと辺境伯に詰め寄るが、

 『殿下についてきたあの大軍は何か』

と辺境伯は尋ねた。皇太子の軍が掲げる旗に

不審感を持っていたからだ。自国に同じ紋はなかったし、皇太子の紋でもなかった。また女一人を連れ戻すのに大軍が要るのかと彼は感じたのだが、その通りになった。皇太子の制止も聞かず軍は攻撃を仕掛け、ジャニスの救出に来た援軍は辺境伯が内通したと怒りを発し彼の家族に刃を向けた。ジャニスの夫は妻を城から逃がし自国の軍勢へ王女を渡す。だがもはや王女ですら信用されず、皇太子が軍を引き上げた後、ジャニスは自国の軍隊と戦い戦死する。最期にジャニスは自分の子を女帝と会わせるよう夫に言い残して息を引き取った。兄の代わりに下の皇子2人が反乱を収めたが、その頃には三つ巴の戦いでどこの軍隊も全滅していた。だが、オリガの国から軍が出ていたと女帝は知らされ、密偵なども出し確かめた結果、女帝は同盟国を殲滅したその報復にアステンブリヤを滅ぼす。女帝は皇太子を廃嫡し彼をその地の監視役に据え、第二皇子を後継者に指名した。それが現在の皇族の系譜になっていたのだった。

 ーさて、輿入れの馬車も国境地帯に着き、荷解きするだけになった。エンリコは馬車を止めるよう指示して馬から降り、皇帝自署による文面を開いて読み始めた。

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