急報
「ー何?アステンブリヤ公だと?」
サヴァスキータ侯は目を見開いた。
「それは確かか?どこでそれを聞いた?」
「ーカンブレーぜです」
摂政閣下を訪ねた後に出かけたと。ー使者は侯爵に告げた。
「わしの息子を追いかけて出かけるとは…。皇族のすることとは思えん」
「ー摂政閣下は公爵が出向かれるのを半ば容認されたそうですが…お止めしましょうか」
「行かせておけ。構わんで良い」
侯爵が言うと、
「ご子息に何かあったら…」
「傍系の存在があることはせがれも知っておる。ーそこで逃げるようならついて行っておらん」
「承知いたしました」
使者は礼をした。
皇帝には知らせたかと聞かれ、使者は別の者がと侯爵に答えた。
「なら良い。ー大儀であった」
そう言うと侯爵は大きく息を吐いた。
使者が去った後、玉座の間に奥方がやって来た。
「あなた…今のお話はいったいどういうことですの?」
奥方は尋ねた。
「そなたの子に無礼を働かれたという者が出てきたのだ」
「まあ!どうしたら…」
「ルイーザが連れていきたいと言ってあれを呼びに来たのだから、わしは納得しておる」
おおかた言いがかりであろう。ーそう侯爵は言うのだった。
「2人とも自分が納得せんと動かぬ質ゆえ、わしにも止めようがなかった。…シルヴィア、そなたの子は特にな」
言いながらも
「公爵一人なら、あれ一人で太刀打ちできるはずだ。ー心配するな」
奥方は言った、
「確かーアステンブリヤ公と、使者の方が」
「…気になるのか?」
侯爵は尋ねた。
「気になりますわ。…あのご一族は、皇族と遠縁になるのでしょう?息子がもし怪我でもさせたら…」
奥方の言葉に、侯爵は微笑みを見せた。
「あれは呼ばれて出向いたのだ。あちらには公子もヴェストーザ公もおる。独断で行ったわけではないのだから大丈夫だ」
それに、ー侯爵は続けた。
「アステンブリヤ公は摂政大公の甥になるが彼の一族は世評が著しく悪い」
分が悪いのは公爵の方だろう。ーそう侯爵は言った。
高原地帯で育っただけあり、侯爵は背丈も肩幅もある大男だった。白髪の目立ってきた黒髪にハシバミ色の瞳と太い吊り気味の眉。年はもう60近い。後妻とは親子ほど年の差があった、だがその動作や物腰からは実年齢が感じられなかった。それほど侯爵は若々しい人物だった。
「摂政大公様の甥御に当たられるのですか」
「アステンブリヤはな」
侯爵は苦々しく言った、
「結婚する際、実家と縁を切るよう、奥方は言われておったはずだがー摂政大公の屋敷で姪と会ったからには奥方が黙って呼んだのだろう。皇帝も摂政大公も、あの一族をひどく嫌っておる」
「何が⋯何があったのですか」
「あの公爵家はな。ー先祖が他国へ乗り込んで、反乱を起こさせたのだ」




