同行者
フェラン。元の名はフェルディナンドだが
ルドヴィカは彼を短縮形で呼んでいた。また彼女がエンリコの人となりをよく彼に話していたため、フェルディナンドも彼に心を開き短縮形で呼んでほしいと頼んだ。身内以外で彼が心を開く相手はほとんどいなかった。
「閣下ー1つお願いがあるのですが」
馬車が進み出してからフェルディナンドはエンリコに尋ねた。
「ー何だ?言ってみてくれ」
「公子とご面会することになっているのですが、あちらでお口添え頂けませんか。殿下のご紹介にあずかったので」
そう言ってフェルディナンドはルドヴィカの紹介状をエンリコに渡した。
「これはー」
エンリコも息を呑んだ。そこには、
〔この書状を所持する者を
公子ご親友シュスティンガー侯爵の
重要参考人としてご紹介いたします〕
とあった。それを読んで、エンリコは
「解った。担当の官僚に話してみよう」
とフェルディナンドに言った。読んだ書状をフェルディナンドに返すと、エンリコは彼に言ったー
「殿下の幼馴染とは、君のことだったのか」
「…はい」
エンリコは一人うなずいている。
「私も父から聞いたことがないので失礼してしまった。書状にあった侯爵だがー彼の生い立ちに疑問が持たれているので、不明な点を照合したいということだろう」
しかし君はここへ来るまでずいぶんと苦労を積んできたのだな。ー最後は深いねぎらいの言葉だった。
「痛み入ります」
フェルディナンドは言った。エンリコからのねぎらいが彼の胸の奥に染み渡った。ーだがこの人も何者かに消される運命にあった。
後ろでは
「あいつどれだけ縁故持ってるんだー?」
「殿下とそんな仲良かったのか?」
と若者が囁き合っている。だが今の彼には、何か言っているなと言うくらいの重さでしかなかった。ルドヴィカの持ってきた異母兄の消息、あれを見た時ほどフェルディナンドが衝撃を受けたこともなかった。ー早く会って実情を確かめたい、兄が何を見聞きしてきたか知りたい。彼はそう思っていた。さらには長年の片思いをどう昇華させるかというので彼は悩んでいたのだった。




