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【完結】で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?  作者: Debby


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3 同席しても?

「私のことはロベリーと呼んで」


 朝の一件での喧騒もロベリーが女生徒全員にそう声を掛けていったことで落ち着きを取り戻した。

 婚約者のいない令嬢はその申し出に喜んで応じ、婚約者がいる令嬢は「カーマイン様とお呼びさせて頂きます」とやんわり拒否をした。しかし、少数派ではあるがキャナリィがそう呼ぶのであればと名で呼ぶことにする者もいるようだった。


 きっとロベリーの祖国はそういうお国柄なのであろう、そしてウィスタリア侯爵令嬢もそれをご存知だったに違いない。相手が格上の公爵家の子女だったため、合わせることにしたのではないかと、皆キャナリィに対して好意的な見解を示した。


 ロベリーは公爵家の後継らしく、容姿端麗なだけで無く文武両道でもあった。そのため、この気安さと婚約者がいないとのことからあっという間に令嬢たちからの人気をほしいままにしてしまった。

 フロスティ公爵家の後継であるシアンも人気はあるのだが、ウィスタリア侯爵令嬢という公爵夫妻も認める婚約者がおり本人も令嬢を溺愛している為、表だっての人気はロベリーに集中した。




「今日、フロスティは不在なのだね、同席しても?」


 ある日キャナリィが食堂でクラスメイトとランチを摂る為にテーブルに着いていると、ロベリーに声を掛けられた。

 同じテーブルを囲む令嬢に視線で尋ね了承を得たキャナリィは「どうぞ」と短く答える。

 ロベリーは「ありがとう」とキャナリーや同じテーブルにつく令嬢に笑顔で伝えると、迷わずキャナリィの左隣の席に着いた。

 シアンは春休暇後半から、公爵と一緒に領地へ赴いている為学園を欠席していた。新学期の初日はキャナリィと登校したいと、態々領地から戻ってきていたのだ。

 いつもならキャナリィは幼馴染みで親友のクラレット・メイズ伯爵令嬢と行動を共にしているのだが、彼女もまた家が経営する商会の後継として、春休暇を利用して伯爵について他国に渡っておりまだ戻ってきていない。

 まるでその隙を狙ったかのような接触に、食堂がざわついた。

 ロベリーに侍っていたほとんどの令嬢は彼がキャナリィに声を掛けたときに散ってしまった。

 それもそのはず。同席の許可を取ったのはロベリーのみで、ロベリーの関係者であるならまだしも、同じクラスとはいえ同意も得ずにいきなり同じテーブルにつくなどマナー違反以外のなにものでもないのだ。

 しかしロベリーの左側に立っていた令嬢は同席の許可も取っていないのにそのままロベリーの左側の席に手を掛けたのだ。

 同席していた他の令嬢も、驚いたようであったが「マナー違反だから違うテーブルに行け」などと言えるはずもない。

 彼女は所作も美しくマナーも完璧。このような振る舞いをするような令嬢ではなかった筈だ。

 キャナリィはその令嬢を一瞥すると誰にも気付かれないようにため息をつき、彼女が静かに席に着くのを見届けた。




「まぁ、では留学中に婚約者を決めなければなりませんの?」


「そうなんだ。家の方針でね。だから少なくとも祖国と我が国の言語の二カ国語に精通していることが条件になるのかな」


 公爵家の事業の為、カーマイン公爵家の後継の婚約者探しを兼ねた留学先は親類縁者に出身者のいないもしくは少ない国に決められるそうだ。

 その話を周囲で聞いていた令嬢たちの表情が喜色と憂色に割れた。

 大陸共通語という言語がある為、特別クラスの令嬢でも他国に嫁ぐ予定が無かったり、実家が商会や貿易関連の仕事をしていなかったりする場合は他国の言語に明るくない者はいる。それでもこの国に隣接している国の言語であれば話せる者も多数いるが、二つの国を挟んだロベリーの祖国の言語を習得している令嬢・・・となればかなり限られてくる。


 ロベリーの左隣に座るローズは笑みを深めた。

 勿論幼い頃から公爵家の血統として恥ずかしくない様に他国の言語にも力を入れてきた。ロベリーの祖国の言葉も難なく話せる。


「キャナリィ嬢は私の祖国の言葉は?」


「──そうですわね、日常会話程度であれば・・・」


 なのにロベリーが尋ねたのは、右隣のウィスタリア侯爵令嬢ただ一人。

 公爵と侯爵の子女の会話。血統はどうあれローズが話に入るにはロベリーかキャナリィが話を振ってくれるのを待つしか無い。

 しかしロベリーはキャナリィにしか興味がないとばかりにローズに半分背を向けキャナリィだけに話しかけていた。


 キャナリィにはシアンという婚約者がいることをロベリーも分かっているため他意は無いのだろうが、シアン不在というこのタイミングでのこの質問に、高位貴族とはいえ低俗なことを考え邪推するものはいる。

 分かっていても、あり得ない方へと考えが誘導されるのだ。

 たとえ誘導されたとしても、これまで培ってきた貴族としての考えをしっかり持っているのであれば、理性で浅はかな思考から逃れることは出来ただろう。

 しかし、そのまま流されてしまう人がいることをキャナリィは知っている。


──恋をしているのであれば尚更。


「フロスティも数カ国語話せるよね」


 気付かないフリなのか、本当に気付いていないのか──話を続けるロベリーに、キャナリィは再び軽くため息をついて微笑んだ。

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