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第二十章〜終焉の召喚神〜④

そして夕刻。

長く伸びた影が静かに石畳を這うころに、エルクは大聖堂に足を運んだ。

まだ完全に修復されていない大聖堂の中は、割れた窓から差し込む柔らかな光が交差している。

その中央にある祭壇に、彼女の姿があった。


「マリア……」


エルクが静かに呼ぶと、彼女は淡い金の髪をふわりと揺らし、振り返った。

差し込む夕日が彼女の輪郭をやわらかく照らし、その姿は聖女のように神々しく見える。


「……ふふ、だいぶ修復が進んだね」


マリアの言葉に、エルクは小さく頷いた。


「そうだな。……みんなで力を合わせたから、こんな短期間でここまで来れたんだと思う」


その声は、どこか緊張を含んでいた。

今までにない声色に、マリアが気づき彼の顔をじっと見つめる。


「……何かあった?」


心配するマリアに、エルクは少しだけ目を伏せる。

そして、祭壇の前に立つ彼女へと、ゆっくりと歩み寄った。

まだ完全ではないステンドグラスの隙間から、橙色の光が二人のあいだに滲む。


「マリア……お前には、何度も助けられてきた」

「え……?」

「戦いの最中も、ずっと支えてくれた。俺が折れそうになったときも……お前の祈りが、声がそばにあって……ここまで来られた」


言葉を選びながら、エルクはマリアの瞳を真っすぐに見つめる。

その視線に、マリアは静かに口元を押さえたまま、耳まで赤く染めていく。


「……だからさ」


エルクは一歩踏み出し、マリアの手を取った。


「これからもずっと……お前の隣で、共に歩いていきたい。喜びも、痛みも、全部―――分け合って生きていきたい」


その真剣な言葉に、マリアの瞳が潤む。


「俺と一緒に……未来を紡いでくれ」


エルクの声は、震えていた。

けれどその眼差しはただ真っすぐに彼女だけを見据えている。

その想いの強さに、マリアはそっと瞳を伏せる。

そして―――


「……私なんかで、本当にいいの?」


唇を小さく震わせ、マリアはエルクを見つめた。

その瞳の奥には、不安と戸惑い、そして―――確かな喜びが宿っている。


「お前じゃなきゃ、だめなんだ。ずっと……そばにいてほしい」


その一言に、マリアの頬に涙が伝った。

それは悲しみの涙などではなく、心の奥底から零れ落ちた、喜びの雫だったのだ。


「……私でよければ……あなたの隣にいさせて?」


エルクはその返事にマリアの手をぎゅっと握りしめた。

彼女もまた、そっと手を握り返し、重ねた手のぬくもりが確かな想いを伝え合う。

穏やかな夕陽の光が二人を包み、エルクはふっと笑みを浮かべると一歩だけ距離を縮めた。


「……ありがとな、マリア」


そう言って、エルクはマリアの額へ自分の額をそっと重ねた。

静かで、優しくて、まるで祈りのような仕草に、マリアはそっと目を閉じる。

この―――結ばれた瞬間を噛みしめるように……。


―――そのとき、ぱちぱちぱち……と、どこからともなく拍手の音が響いた。


「やったなー!兄貴ー!」

「エルク……ついに!ついにだよ!」


慌てて振り返るエルクの前に現れたのは、ライナスとフィール、ベル、そしてヴァンだった。

皆、笑顔を浮かべながらもどこかニヤニヤとしている。


「お、お前ら……っ!いつから見てた!?」


エルクが顔を赤くして叫ぶと、フィールが手で口を押さえながら肩を震わせる。


「最初からに決まってるじゃんー。あんなわかりやすい顔して行ったら、バレバレだしー?」


ベルが腕を組み、満足そうに鼻で笑った。

するとヴァンが、目頭を拭う仕草を大げさにする。


「いやー、感動したぜ……」


わざとらしく鼻をすすりながら、芝居がかった声をあげるヴァンにエルクは顔を真っ赤にしながら吠える。


「うるっさい!」

「けどさぁ、あの『おでこコツン』は反則じゃない?あれはもう『俺のもの』って言ってるようなもんだよ」

「ベル、やめてぇぇ……」


マリアの悲鳴じみた声に、全員がどっと笑いに包まれる。


「ったく……お前ら明日の瓦礫運び、倍だからな!」

「え!!」

「理不尽!」


笑い声が響く夕暮れの大聖堂のなか、戦いの終わりの先にあった確かな始まりが、静かに刻まれたのだった。


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