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第二十章〜終焉の召喚神〜③

あの激闘が幕を下ろしてから一か月の時が過ぎた。

瓦礫は少しずつ片付けられ、崩れた壁には新たな石が積まれ始めている。

まだ完全とはいえないが、中央教会は少しずつ祈りと笑いの声が戻りつつあった。


そんななか、教会裏手の大きな柱の根元で、ひときわ年季の入ったローブ姿の男たちが、並んで瓦礫を運んでいる。


「まさか、この歳で石運びとはな」


ジンが腰をさすりながらぼやくと、すかさずルーインが石材を軽々と抱え、呆れるように返した。


「口を動かす前に、手を動かしていただきたいですね。支部長」

「うっ……こういうのは適材適所ってのがあってだな……」

「全員が『手』です」

「……ぐ……」


ジンが押し黙ると、少し離れた場所でゴードンがふっと目を細めた。

言葉こそないものの、この光景にどこか柔らかな空気が流れる。

そんな彼らの前を、エルクたちが瓦礫を抱えてゆっくりと通り過ぎていった。


「だいぶ片付いてきたよな」

「そうだね。この調子だったら、あと二か月くらいで元通りになるんじゃない?」

「みんなですれば、早く終わるね!」

「俺は早くメシが食いてぇ」


エルクとフィール、ベル、ライナスは肩に汗をにじませながら、崩れた柱の破片を仮置き場へと運ぶ。

そして、振り返ると同時に空を仰ぐと、そこには教会の尖塔が少しずつその姿を取り戻していくのが見えた。


「平和って……案外静かなものなんだね」


フィールの言葉に、誰もが小さく頷いたそのとき――――


「ちょうどいいところにいたな、お前ら」


どこか野太く、それでいて馴染みのある声が背後から響いたのだ。

振り返ればそこに、バールの姿がある。


「瓦礫の撤去作業、ご苦労」


そう言いながら歩み寄って来る彼のローブの袖は、根本でしっかりと止められていた。

風に揺れることもなく垂れており、エルクたちは失った腕の重みをただ黙って受け止める。


「おいおい、なくなったものは戻ってこないのだから、そんな目で見るな」


声に、悲しみはなかった。

それどころか、どこか茶化すような軽ささえ含まれている。


「心配する暇があったら、もっと瓦礫を運べ。それより―――」


そこでバールは一歩、横に身を引いた。


「新しい仲間を紹介しておこう。お前たちなら、すぐにわかるだろうがな」


その言葉とともに、ひとりの少年が彼の背から姿を現す。

少しだけ背が伸び、茶色のローブに身を包んだその少年は、少し照れくさそうに笑ってみせた。


「……よっ」

「……ヴァン!?」


エルクは驚き、目を見開いた。

フィールとベルも同時に声を上げ―――


「なんでローブ……え、サマナー!?」

「そうだ。こいつは正式に『ノーム』との契約を果たした」


バールが誇らしげに言うと、ヴァンは小さくうなずいて前へ出た。


「まだまだ未熟だけど……俺、精霊と契約してサマナーになれたよ。これからは正式な仲間として……一緒に戦いたいって思ってる。まだ悪魔の残党がいるだろ?」


その言葉に、エルクは自然と笑みを浮かべながら、ヴァンへと歩み寄る。


「……おかえり、ヴァン」


エルクが拳を差し出すと、ヴァンは嬉しそうに応じて拳を合わせた。

その直後、教会の広場でシスターたちの明るい声が響く。


「みなさーん!お昼の用意ができましたよー!」


マリアたちシスターが籠を抱えて現れ、集まって来る人たちに手際よく昼食を配っていく。

その中身は、パンに挟まれた野菜や卵、果物だ。


「あ、エルクーっ!」


マリアはエルクの姿を見つけると、少し早足で駆け寄った。


「はい、エルクのぶん。しっかり食べてね」


彼女はそう言って、エルクの手に包みを乗せた。

エルクはそれを受け取り、しばし無言で視線を落とす。


「……ありがとう」


短く、それでも確かに感謝を込めて言うと、彼はふいに顔を上げてマリアを見つめた。


「……なぁ、今日の業務が終わったら……少し時間あるか?」


不意の問いに、マリアは目をぱちぱちさせたあと、すぐに柔らかく笑って頷いた。


「うん、いいよー」

「じゃあ……大聖堂で」


そのやりとりを少し離れた場所でライナスとフィール、ベル、ヴァンが見守っていた。


「お、きたなこれ」

「告白予告かー……ニヤニヤが止まらない……」

「もー、『やっと』なの?フィールなんてとっくに……」

「ちょっ……!ベルっ、しーっ!」


あわてて口を塞ごうとするフィールに、ベルはおどけたように肩をすくめる。


「え……お前ら付き合ってんの……?」


ヴァンがまじまじと二人を交互に見つめた。


「え、いま気づいたの?」

「いやいや、まったく気配なかったぞ!?……まさか、ライナスもとかいうんじゃないだろうな……!?」


焦り気味に振り返るヴァンに、ライナスは苦笑を浮かべて肩をすくめた。


「さぁな」

「は……!?おまっ……誰だ!?俺の知ってるやつか!?」


思わず声を上げるヴァンに、ベルが肩を叩きながら笑いを堪える。


「一か月もあれば……ねぇ?最近、イーネと一緒にいるのをよく見るしー?」

「……ふん」


ライナスが少し顔を赤くしながらそっぽ向くと、ヴァンが目を丸くした。


「俺だけ取り残されてる!?」

「がんばれ、新人サマナーくん」

「マジかよ……」


そんなヴァンを、三人が目を細めて笑う。


「今度は兄貴の番ってことだな」

「そうだね」

「がんばれっ、エルクっ」


四人の視線が、再びエルクとマリアへと戻る。

昼の日差しがその背中を穏やかに照らすなか、彼らはまた作業に戻ったのだった。


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