第二十章〜終焉の召喚神〜②
ロキが剣を突き出した―――その瞬間―――
「―――若い世代は、殺させん!!」
そう言ったのは、バールだった。
彼はロキとエルクのあいだに割って入り、レーヴァティンをその腹で受け止めたのだ。
「ぐぅっ……!」
「バール……!?」
エルクのかすれた声が、驚愕とともに漏れた。
ロキは、信じられないという顔で、剣が深々と突き刺さるバールを見下ろしている。
「なっ……どうして動ける……!?この重力のなかだぞ……!?」
バールは苦悶に顔を歪めながらも、震える手を上げロキの腕をがっちりと掴んだ。
「―――フレイの力を……この腕に集中させてな……神の一人や二人、引きずり込むくらい……できる……!」
その手は鉄の鉤のように、ロキの腕を逃さず絞めつける。
「ぐっ……離せ、離れろッ……!」
ロキは必死にもがくものの、バールの腕は微動だにしない。
そして、このチャンスを逃すまいと、エルクが叫んだ。
「オーディン!!」
その瞬間、空間が揺れ雷鳴が轟いた。
稲妻が奔り、天に現れた亀裂からオーディンが降りてきたのだ。
「……!?オーディン……ッ!」
その姿に、ロキの顔が恐怖に歪む。
オーディンはそのまま一歩、また一歩と歩み出た。
そして―――
「神を騙り、人の命を弄ぶ者よ。その傲慢、我が神鳴りにて討つ。人類への信仰、我が責任において―――終わらせよう」
「やめろぉぉおおおッ!!!」
ロキの絶叫が響く。
必死にもがき、バールから逃れようとするがその腕はロキを捕らえて離さない。
「離せ……離れろおおぉぉ!!」
だが、次の瞬間―――バリバリッ……!と雷鳴とともにオーディンの槍が放たれたのだ。
その刃は、容赦なくロキの背から胸を貫く。
「ぐ、あぁぁぁああああ―――ッ!!」
天地を揺るがすような悲鳴を上げ、ロキの身体が大きく痙攣する。
やがて力が抜け、カクンっ……と膝をついたのだ。
「オーディン……僕はキミに認めてほしかっただけなんだよ……僕にだって……悪知恵だけじゃなくて……強大な力があるって……」
呟くようなその言葉を最後に、ロキの身体は霧のように溶けていった。
風に乗って散り、大聖堂に再び静寂が訪れる。
「―――神の雷に焼かれた者が、再び姿を得ることはないだろう」
オーディンはそう告げると、天の裂け目へと姿を消していった。
重力の檻が解かれ、自由を取り戻した仲間たちはすぐにバールのもとへと駆け寄る。
「バール……!」
「大丈夫ですか!?」
「すぐに治療を……!」
そのなかをかき分けるようにオリヴィアが姿を現し、すぐさま膝をつく。
そして、震える手を合わせ柔らかな光を生み出した。
「お願い……お願い、間に合って……!」
癒しの光がバールの腹を包み込み、ゆっくりと傷を閉じていく。
さいわいにもレーヴァティンは横腹を貫いており、致命的な部位は僅かに逸れていたのだ。
「……まったく、年寄りに無茶させおって……」
弱々しくも、バールは微笑んだ。
その瞬間、安堵の涙が皆の頬を濡らしたのは―――言うまでもない。
「終わったんだな……」
すべての悪夢が、ようやく終わりを告げた。
命を繋ぎ止められことに胸を打たれて涙する者や、その喜びをかみしめる者―――誰もがそれぞれの想いを抱えながら、その場に立ちつくす。
「さぁ……これからゆっくりと、日常を取り戻そう」




