第二十章〜終焉の召喚神〜①
ロキは、まるで拍手喝采を受ける舞台俳優のように一礼し、祝福するかのような笑みをみせる。
「おめでとう。おめでとう。実にめでたい日だねぇ。悪魔を退けて、世界は救われた。素晴らしい功績だよ」
黒いローブを身にまとい、悠然と瓦礫の上に立つロキは、無邪気なようにみえて底知れぬ悪意を孕んでいる。
「ロキ……!貴様……!」
怒気を込めてエルクが叫ぶと、ロキはそれを称賛とでも受け取ったかのように、にこやかに応じた。
「そんなに怒らないでよ。キミたちは勝ったんだよ?誰もが望んだ結末じゃないか。ほら、危機は去ったんだから、めだしめでたし」
「ふざけるなッ……!!」
エルクは拳を握りしめ、血走った目でロキを睨みつけた。
だが、ロキはまるで子どもが拗ねてみせるような顔で、肩をすくめる。
「そんなに怖い顔しないでよ。こっちは祝福してあげてるのにさぁ。……ああ、そうか。クロスのこと、怒ってるんだね?」
その名に、エルクの肩がびくりと震える。
「お前がその名を呼ぶなッ!!」
「自分で殺したんでしょ?キミの―――その『手』でさ」
「黙れ!!」
エルクの顔が、苦悶に歪む。
拳を強く握りすぎて、手のひらから血が滲むほどだった。
その様子を見ていたフィールが、一歩前に出てロキを睨みつけた。
そして―――
「ロキ……お前、一体何のためにこんなことを……!!」
我慢ならないというように叫ぶフィールに、ロキはまたしても肩をすくめてみせた。
「ん?前にも言ったよね?僕の目的は『世界への悪戯』だって。退屈でたまらないこの箱庭に、ほんの少しスパイスを加えたくてさ」
その言葉に、仲間たちの表情が次第に強張っていく。
血と汗にまみれた戦場で、命を懸けた彼らにとってあまりにも許しがたい台詞だったのだ。
「……人の命を……スパイスだって?」
バールが低く、唸るように言う。
その目には怒りを堪えた炎が宿っており、握る拳が震えていた。
「お前の気まぐれで・・・・・どれだけの犠牲者が出たと思ってる……!」
詰め寄るようにバールが叫ぶものの、ロキは飄々としたまま楽しげな笑みを浮かべた。
一興とばかりにくすくすと笑い、無邪気に首を傾げる。
「うーん……数えたことはないけど、けっこうドラマチックだったんじゃない?」
その言葉に、誰もが息を呑む。
怒りすら通じない異質な存在に、その場の空気が凍りついたのだ。
「でもさ、僕の完敗って感じだよねぇ……。サタンは倒されたってのは認めるけど―――」
ロキは、考え込むような素振りをみせると、すぐにぱっと顔を上げた。
そして、とんでもない言葉を放ったのだ。
「そうだ!『人類は救われた』けど、『教会は全滅』―――こんなエンディングはどうかな?」
そう言って、ロキは両手をゆっくりと広げた。
その瞬間、空気が重く歪み、視界がぐにゃりと揺れる。
重力が反転したかのような圧が、そこにいる全員の身体を押し潰すように襲いかかったのだ。
「動け……ない……!?」
呻き声が漏れ、みなが地面に縫い止められたように動けない。
そんななか、ロキは音もなく移動し、エルクの前へと現れた。
「ほんとにキミって子は……無力化したはずなのにオーディンと契約しちゃってさ」
嘆くように言うその声は、嘲りに満ちている。
そして、ロキは軽くため息をついたあと、ニヤリと笑った。
「こんなことなら、ネタバラシせずに見張っておけばよかったなぁ」
そう言うと、ロキは膝をエルクの腹に突き刺した。
「ぐっ……!」
膝をついたエルクは、腹を押さえながら顔を歪め、ロキを見上げる。
「お前は……いつも何を考えてるかわからねぇやつだった……でも……信じてた……!」
苦しみのなか、かすれた声で絞り出された言葉にロキはくすくすと笑う。
その無邪気な笑みに、怒気を隠せなかったフィールとライナスが背後から攻撃を仕掛けた。
「うおぉぉぉっ!!」
雷のような叫びとともに、フィールが風の刃を放つ。
そして、ライナスはミョルニルを振り上げたが、ロキは振り向くことなくひらりと躱したのだ。
「おっと、こわいこわい。そんな重たい空気じゃ、動きも重たくなるよねぇ」
楽しげに言いながら、ロキは指先をくるりと回す。
その瞬間、さらに強くなった重力の奔流が、全員を押し潰しにかかったのだ。
地にひれ伏すように倒れ、教会員たちは顔を上げることすらままならない。
「か、身体が地面に縫いつけられたみたいだ……!」
「動けねぇ……!」
そんな声があちらこちらから漏れるなか、ヴァンがかろうじて腕を持ち上げ引き金を引く。
だが―――
カンッ……という金属音とともに、銃弾は虚しく弾かれてしまったのだ。
「あはは……!ごめんごめん、忘れてた?僕、『神様』だからね」
ロキは軽くウィンクしてみせると、ゆっくりと空間から一本の剣を取り出した。
それは、かつてエルクが使っていた―――レーヴァティンだ。
「それ……っ!」
「やっぱり愛着あるでしょ?―――でさ、僕、考えたんだけど……自分が使ってた剣で最期を迎えるって、物語的に完璧じゃない?」
ロキは、楽しげにつぶやきながら剣を構え、エルクへと歩み寄った。
重力の檻の中、動けないエルクはただ目を見開いたまま膝をついている。
「じゃあ―――これでさよならだ、エルク」




