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第十九章〜終刻〜⑤

バールやルーインと対峙していたサタンも、同じくして『ルシファー』と呟く。

その刹那、空間が波打ち、彼らの影が膨張し始めたのだ。

地面から這い上がり、まるで生き物のように蠢き始める。

その影は刃のように鋭く伸び、教会員に向かって襲いかかっていったのだ。


「なっ……!」

「教会員たちを守れ……!」


緊迫した声が飛び交うなか、教会員たちは咄嗟に武器を構える。

だが、影はその間隙を突くように蠢き、音もなく迫ってきたのだ。


「うわあああっ!!」

「引くな!!戦え!!」


教会員たちが必死に応戦するものの、影は意志を持っているかのように滑らかに動く。

そして剣を躱し、盾の隙間から彼らを吞み込んでいったのだ。


「ここは任せよ」


その言葉と同時に、逃げ惑う教会員たちを背にハイントスマンが一歩前に進み出る。

そして、両手を掲げて大聖堂全体に光を広げたのだ。

光に触れた影たちは白煙を残して弾け飛び、蠢きながら退いていく。


「強すぎる光には、影は存在できん―――それが摂理じゃ」


ハイントスマンの声に、怯えていた教会員たちが立ち上がる。

光に照らされ、彼らの顔に決意が戻っていったのだ。


「ハイントスマン様……!」

「負傷者を運べ!戦える者は前へ!!」


戦場の流れを再び味方に引き寄せた瞬間、サタンはまたしても呟く。


「ならば……レヴィアタンだ」


その声は重たく、地の底から響くような声だった。

三体に分かれていたサタンの肉体が脈動し始め、ねじれながら融合していく。

やがて、ひとつの影へと戻ると、その身体は膨張していったのだ。


「な、なんだあの大きさ……!」

「天井が……!」


膨張を続けるサタンの身体は留まることを知らず、ついには大聖堂の天井を突き破ったのだ。

瓦礫が四方に飛び散り、空を遮るほどの巨影がその場を支配する。


「くそデカいな……」


バールが血の滲む口元で呟く。

すると、その巨躯はゆっくりと首をもたげた。

少し動くだけで空間そのものが軋むような音を立て、身じろぎするだけで風が吹き荒れる。


「あんなのに踏まれたら……ひとたまりもないんじゃ……」

「距離を取れ!!前衛は下がれ!!」


誰かの叫びが響いた瞬間、巨大なサタンは足を持ち上げた。

その一歩は天地を逆転させたかのような圧を生み出し、大聖堂の石床を瓦礫ごと陥没させる。

だが―――


「ただデカくなっただけだろうが!!」


叫びとともに、瓦礫のあいだから飛び出したのは、エルクだった。

彼は再び、雷と風の力をグングニルに宿す。

そして、一直線にサタンへと駆け出したのだ。


「行くぞ、オーディンッ!!」


その声に呼応するように、空が割れて雷鳴が轟く。

そして、オーディンがエルクの背後に降り立った。

空間が震え、雷光が地を穿つ。


「オーディン、援護を頼む!!」


するとオーディンは空を見上げ、雷槍を無数に作り出した。

それらは一斉に、巨大サタンへと降り注ぐ。


「デカくなったのなら―――その図体、足場に使わせてもらうぞッ!!」


降り注ぐ雷槍を避けつつ、エルクは雷風を纏った身体でサタンの巨体を駆け上がっていった。

腕を走り、肩を踏み台にして跳躍。

そして額の上へと飛び移る。


「喰らえええぇぇッ!!」


雷鳴のような叫びとともにグングニルを高く掲げ、サタンの額へと突き立てる。

槍先が触れた瞬間、雷風が爆発するように広がり、サタンの頭部を覆い尽くす。

しかし―――


「……無駄だな、効かぬ」


その爆発の中心から響く低い声に、エルクは目を見開く。

爆発の隙間を割って現れたサタンの額には、すでに傷の痕すら残っていなかったのだ。


「なんだと……!?」


渾身の一撃が効かないことに驚いたエルクは、思わずグングニルを握る手に力を込める。

だがその刹那、サタンの手がエルクを掴まんと振り上げられたのだ。


(くそっ……逃げきれねぇ……!)


『掴まれる』―――そう思った瞬間だった。

巨体の動きが、突然止まったのだ。


「……!?」


まるで鎖に引きずられたかのように、サタンの腕が空中で固まっている。


「……なんだ……?身体が……動かん……」


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