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第十七章〜終わりの始まり〜⑤

分裂していたときよりも巨大になったアスモデウスは、頭が三つに分かれていた。

それぞれが異なる嘲笑を浮かべ、ルーインたちを見下ろしている。


「死ねェェェ……!!」


三つの口が同時に叫びをあげると、アスモデウスの巨体が唸りを上げて突進してきた。

まるで地響きのような衝撃が、雨に打たれた石畳を砕きながら迫ってくる。


「あの怪力はまずい・・・・・!みんな、避けてください!!」


ルーインの叫びに、四人は散開する。

すると、一撃で地面がえぐられ、吹き飛んだ瓦礫が宙を舞ったのだ。

その攻撃力は、分裂時とは比べ物になりそうにない。


「っ、やば……!」


フィールが飛び退きながら、風で瓦礫を処理する。

だが、処理しきれなかった破片が頬や足元をかすめ、鮮やかな血が雨に滲んでいく。


「フィール!大丈夫!?」


ベルが駆け寄ろうとしたそのとき、ルーインの声が響いた。


「来ますよ!構えて!!」


その瞬間、アスモデウスの目がベルを捉える。


「ベル!危な―――!」


フィールの叫びが届くより早く、アスモデウスの巨大な腕がうねるように伸びた。

一直線に狙われたベルは、咄嗟に両手を掲げて水の膜を張る。

だが―――


「だめっ……!受けきれない……!」


一瞬のうちに幕が破られ、凄まじい衝撃がベルの身体を打ちつけたのだ。

小さな体が宙に舞い、石畳の上を転がっていく。


「ベル!!」


フィールは風を巻き起こし、彼女のもとへと駆け寄る。

ルーインとジンも、彼女の様子を気にかけるがその隙をアスモデウスが見逃すはずはなかった。

すぐさま攻撃の手をルーインへと切り替え、地響きを立てて突進していったのだ。


「くっ……ジンさん、潮風で足止めしてください!私に案があります!」


ルーインの言葉に、ジンは両腕を大きく振りかぶるようにして潮風を呼び込んだ。

湿り気を帯びた空気が中庭に渦巻き、アスモデウスの巨体を包むようにしてまとわりついていく。


「ギ……ッ、またこの風かァ!!」


アスモデウスが怒声を上げてジンを睨みつける。

その隙に、ルーインはフィールとベルのもとへ駆け寄っていた。


「ベル、まだ戦えますか?」


フィールに支えられて座っていたベルは、顔をしかめながらも小さく頷く。


「だ、大丈夫です……!戦えます!」


その返答に、ルーインは微笑を浮かべると次の指示を出した。


「ジンさんが足止めしてくれています。今のうちに足元を崩しましょう。いいですか?これまで練習してきた『連携』を、ここで発揮しますよ」


フィールとベルは互いに顔を見合わせ、決意するように頷いた。

そして立ち上がり、アスモデウスを見据えたのだ。


「ジンさん!援護します!!」


そう叫ぶと、フィールは風を展開した。

ジンはその声に反応し、口元にわずかに笑みを浮かべる。


「頼んだぞ!」

「はい!」


潮風にフィールの風が重なり、中庭の空気は一層激しく渦巻き始めた。

アスモデウスの肌を侵食するスピードが上がり、ぼろぼろと粉がこぼれ落ちていく。


「クソッ……!おまエが一番厄介だなァ!?」


呻くアスモデウスを前に、フィールは手を広げて小さな竜巻を生み出した。

風の柱は雨を巻き上げながら、ベルのもとへと向かう。


「ベル!!」

「オッケー!任せて!」


ベルはすかさず手をかざし、竜巻の中心に水を流し込んだ。

風と水が絡み合い、やがて暴れ狂うような台風が誕生したのだ。


「なッ……!?」


小さくともその威力は圧倒的だった。

暴風は地をえぐり、吹き飛ばされた瓦礫がアスモデウスの周囲を容赦なく襲ったのだ。

アスモデウスは、咄嗟に身を翻して防御の姿勢を取るも、その肉体に深い傷が走る。


「グッ……この、ガキどもがァ……ッ!!」


風と水の協奏は止むことなく、アスモデウスを押し流していく。

そのときだった。

彼の足元に亀裂が走ったのだ。


「なにッ……!?」

「風にばっかり注力してるからだ。―――俺の力、忘れたワケじゃねーよな?」


その言葉を発したのは、ジンだった。

彼はひそかに潮風を足元へと送り続け、地面の腐食を促していたのだ。

塩分を含んだ風は地を侵食し、気づかぬうちに基盤を脆くしていた。


「まさか、そこまで……!」


アスモデウスが気づいたときには、すでに遅かった。

足元が崩れたことで大きくバランスを崩したところに、ルーインの一閃が裂く。


「―――ここですッ!」


ルーインの剣は、的確にアスモデウスの胴を斜めに裂いた。

この攻撃にアスモデウスが怯んだ隙を狙い、フィールとベルが作り出した暴風が容赦なく吹きつける。


「グ、アアアアアアアッ……!」


風が肌を裂き、水が傷口に入り込む。

さらには、ジンが潮風による腐食を加速させ、アスモデウスの身体はみるみるうちに蝕まれていったのだ。


「おのれ……おのれェェェッ!!」


怒りの叫びも虚しく、ルーインはもう一撃を浴びせるため飛んだ。


「これで、終わりですッ!!」


その一閃は急所を正確に撃ち抜き、アスモデウスは血を撒き散らしながら崩れていったのだ。


「ぐ……あ、あ……ああああああァァァァ……ッ!!」


断末魔とともに霧散していくアスモデウス。

やがて風が少しずつ弱まり、フィールとベルが作り出した暴風も、静かに収束していく。

降りしきる雨のなか、重たかった空気だけがふっと軽くなる。


「終わった……んですかね……?」


肩で息をするフィールの声に、ルーインは血を払うように剣を一振りする。

そして―――


「終わりです。……ですが、完全な終わりではないでしょう。すぐにエルクたちのところに向かいますよ」

「はい!!」


こうして三体に分裂するという『色欲の悪魔・アスモデウス』を討伐することに成功したルーイン班は、エルクたちバール班を援護するため、動き出したのだった。


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