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第十七章〜終わりの始まり〜③

その声は、嘲るように響いた。

そして次の瞬間、再びその腕が地を這うようにルーインへと伸びてきたのだ。

鋭い軌道とためらないのない速さに、ルーインは飛び退く。


(……『何か』まではバレていないようですね)


雨が激しく石畳を打ちつけるなか、ルーインは呼吸を整えて距離を取った。

喜々として近づいてくるアスモデウスの表情は、まるで『狩人』そのもの。

間合いの詰め方に、『遊び』の気配がにじみ出ていた。


「ほらほら、もっと焦れよォ……?もう何もできねぇって顔、早く見たいんだけどなァ……?」

「申し訳ありませんが、見世物のつもりはありませんよ」


ルーインは静かに剣を構え直すと、アスモデウスの動きに注視した。

肩の動きや腰の捻り、足の踏み込みなどすべての動きを見極める。


(ノルンの力を発動させる動作が読まれているとすれば……)


ルーインは、次の一手を悟らせないよう、意識的に『動きの無駄』を混ぜた。

意図的に重心を左右にずらし、視線を少しだけ逸らす。

そして呼吸のリズムを変え、初動をワンテンポ遅らせる。


「今度はこっちかァ!?」


ルーインの動きに反応するアスモデウスは、その腕をしならせて地に叩きつけた。

石畳が砕けた瞬間、土煙と飛び散る水飛沫が視界を遮ったのだ。

そのわずかな時間にルーインは素早く身を引き、砕けた石畳の影に姿を潜めた。


(今です)


気配を限界まで殺し、ノルンの力を発動する。

未来の分岐を読み、アスモデウスの次の動きを先んじて視た。


「次は―――『両手で石畳を割る』んですね」


そう呟きながら、ルーインは石畳の影から跳ねるように飛び出した。

刹那、アスモデウスは両手を大きく広げ、地を割るべく振り下ろそうとしていたのだ。


「なっ……!?」

「次は『その腕の一本、右腕を横に薙ぎ払う』―――!」


読むと同時に、ルーインはその場から滑るように身を引く。

するとその直後、アスモデウスの右腕が風を裂き、ルーインがいた『はず』の空間を薙ぎ払ったのだ。


「チィッ……!―――なら、これでどうだァ!!」

「『どうだ』と言われましても……その『新たに作った尻尾で突く』ことはわかってますし」


ルーインが呟き終わると同時に生成されたアスモデウスの『尻尾』。

反射的に振るうも、ルーインの姿はすでにない。

尾の勢いで水たまりが爆ぜ、飛沫が舞い散るなかルーインはその真下に潜り込んでいた。


「そして最後に―――『両腕を交差させて振り下ろす』ですね」


その言葉とともに、アスモデウスの両腕が高く振り上げられる。

だが、それこそが―――『未来の終わり』だったのだ。


「終わりです」


まるで運命を告げるようなその声が響くなか、アスモデウスは腕を振り下ろす。

その瞬間、ルーインの剣が疾風の如く閃いたのだ。


「なっ……!?」


描く剣の軌道が、雨の帳を裂いて走る。

そして、急所を狙って一閃。

切っ先がアスモデウスの急所を捉えた。


「ぐ、ア、あああああ―――ッ!!」


血を撒き散らしながら、アスモデウスは咆哮をあげる。

だが―――


「……ッ」


ルーインの剣先がわずかにずれてしまい、アスモデウスはその身を翻したのだ。

溶けるように身体を変化させ、瓦礫の隙間へと姿を消していく。


「どこへ逃げても、見つけられますよ……!」


ルーインは、剣についた血を取り払うように一振りする。

そして雨の降る空を見上げ、アスモデウスが向かったであろう場所に向けて走り出したのだった。


一方そのころ、フィールとベルは、もう一体のアスモデウスと対峙していた。

風と水による同時攻撃で、分身体をじわじわと追い詰めていく。


「ベル、できるだけ多くの水の矢を作って!風で加速させるから!」

「わかった!」


フィールの策に、ベルは両手を勢いよく突き出した。

そして、無数の水の矢を宙に作り出したのだ。


「―――行くよッ!」


ベルが矢を放つと同時に、フィールが風でその勢いを増す。

それに回転もくわえられた水の矢は、鋭く唸りをあげてアスモデウスへと迫った。

風の加速と回転により鋼の弾丸と化した矢が、アスモデウスの身体を貫通していく。


「小娘がァッ!!」

「小娘じゃないもん!!」


アスモデウスは怒りに任せて反撃の爪を繰り出そうとするが、すでにベルは次の矢を浮かべていた。


「今だ、ベル!」

「いっけぇぇ―――っ!!」


さらに放たれた矢は、風に乗って回転しながら分身体に迫る。

今度の矢も貫通すると思われたそのとき―――


「調子に乗るんじゃねェぞ!!小僧ども!!」


怒声とともに、分身体が咆哮をあげたのだ。

そして、その身体をどろりと溶かし、水の矢が届く直前に身体を変質させて回避する。


「攻撃のパターンが読まれたか……!ベル、少し変えてみるからもう一度水の矢を!」

「うんっ!わかった!」


ベルは再び手を掲げ、水の矢を生成した。

フィールはその矢に回転をくわえると、矢だけでなく周囲全体に風の渦を作り出したのだ。

水の矢たちは予測不能な動きを見せながら、アスモデウスへと迫る。


「な、に……!?」


軌道の乱れから反応が間に合わないアスモデウスは、その矢を数本腹に受けた。

回転がくわわっていることから腹部を貫通し、背中から飛びでてくる。


「ギアアアアアアッ!!」


悲鳴とともに、アスモデウスの分身体が大きくよろめく。

噴き出る血が雨に混じり、石畳の上が赤黒く染まっていく。


「ま、まだ……終わらねェ……!」


血を吐きながら、アスモデウスは身をよじらせるように大きく後退した。

そして一瞬、その姿が溶けるように揺らぎ―――


「逃げる!?」


フィールが声をあげると同時に、アスモデウスは黒い霧のような残滓を漂わせながら姿を消したのだ。


「待っ―――!」


ベルが駆け出そうとしたその瞬間―――


「落ち着いてください。彼の痕跡は見えてます」


そう言って二人の背後から現れたのは、剣を携えたルーインだった。

肩で息をしているものの、大きなけがはなさそうなその姿に、二人は安堵する。


「ルーインさん!」

「アスモデウスはどこへ……」

「……行き先はひとつ。ジンさんのところへ急ぎますよ!」


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