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第十六章〜新契〜④

数日後―――

鈍く雲が垂れ込める空の下、アースヘルムの中央教会には各地から続々と馬車が到着していた。

西、東、南、北―――四つの支部を代表する長たちが集まってきたのだ。


彼らは、聖堂奥にある巨大な二枚扉をくぐり、その先へと進んでいく。

そこは中央教会最深部に存在する、もっとも広い空間だ。


天井は遥か高くドーム状に広がっており、ステンドグラスが円形に嵌めこまれた天窓からは、ぼんやりとした外光が差し込んでいる。


「―――これより、終末の日に向けた最終戦略会議を開始する」


バールの声に、その場にいた者たちは一斉に視線を上げた。

中心の円卓に設置された十七の席に並び座った者は、いずれも重要な役割を担う者たちばかりだ。

四人の枢機卿たちをはじめとし、支部長のバズ、ジン、ゴードン、ムジカ。

それにくわえ、エクソシスト代表としてヴァンが呼ばれ、エルク、フィール、ベル、マリア、ライナス、ユーリ、イーネ、リンも招集されていた。

この会議の場に若き戦士たちがくわわるのは異例のことだが、それだけこの戦いが重要なものであるかを物語っていたのだ。


「では、対悪魔戦において、各部隊の編成を発表する」


バールは手元にある紙を取り、重みのある声で名を読み始めた。


「―――第一部隊、バール班。メンバーはエルク、ヴァン、そして西支部長のバズ」


名を呼ばれた者たちは、静かに頷くと同時に周囲の視線が彼らに集まった。


「第二部隊、ルーイン班。メンバーはフィール、ベル、南支部のジン」


呼ばれたベルはフィールと同じ班になったことを喜び、手を上げそうになる。

それを見たフィールが苦笑いし、ジンは無言で頷いた。


「第三部隊、ハイントスマン班。メンバーはライナス、ユーリ、北支部のゴードン」


呼ばれたライナスはわずかに目を伏せ、ユーリが隣で彼をちらりと見る。


「第四部隊、オリヴィア班。メンバーはマリア、イーネ、リン、それに東支部のムジカがくわわる。ここは後方支援を頼む」


マリアとイーネは互いに小さく目を合わせ、リンは無言のまま姿勢を正した。

全員の名を読み上げたバールは、紙を伏せて視線を上げる。


「この布陣は、戦力だけで編成されたわけじゃない。相性や技能、信頼関係も考慮してある。班の力を最大限に発揮できるかどうかで、終末の日の勝敗が決まるだろう」


その言葉に、場にいる者たちの表情が一段と引き締まった。

誰もが自身の役割を理解し、背負うべき責務を胸に刻んでいく。


「―――次は、敵についてだ」


バールは別の紙を手に取り、眉をひそめながら円卓を見渡した。


「まずは、『色欲のアスモデウス』。この悪魔は三体に分裂し、姿形を自在に変化させる。見知った顔で近づいてくることもあり得ることから、外見では敵か味方かの判断ができない。注意するように」


その言葉に、マリアとイーネ、リンが頷いた。


「次、『怠惰のベルフェゴール』。こいつは声を使って人を操ることができる。直接的な戦闘力はさほど高くはないが、彼の声を聞いた者は精神を掌握されるおそれがある。ただし―――サマナーには効果がないことがわかっている」


バールの声に、ライナスの目が鋭くなった。

彼自身が強いサマナーとしての自覚を持っているからこそ、その免疫は武器となるとわかったのだ。


「そして『暴食のベルゼブブ』。無数の虫を使っての攻撃が主だ。戦闘力も高く、前教皇―――ロイド様の死も、奴の手によるものだ」


その名を聞いたエルクの肩が、ぴくりと揺れた。

ぐっと握る拳を、フィールが隣で見つめる。


「四つ目は『憤怒のサタン』だ。能力の詳細は不明。ただ『存在しているだけで異常気象を引き起こす』ことはわかっている。現在、アースヘルムに続いている長雨も、奴の影響とみて間違いない。―――終末の日に奴が全力で動けば、自然そのものも脅威となるだろう」


バールの言葉に、自然と周囲がざわつき始める。

だが、それを制するように、バールは手を挙げた。


「まだ続くぞ。五つ目、『傲慢のルシファー』。こいつは影を操る。攻撃も移動も、すべてを影に依存しているようだ。攫われた『クロス』を依り代としているが、その動向は掴めていない。そして―――」


バールは視線の端にエルクを捉えながら、最後の敵の名を口にした。


「『ロキ』。神としての力を持ち、重力を操ることが確認されている。奴が何のためにこの事態を仕組んだのか、その真意はまだわからない。だが、我々の前に立ちはだかる『黒幕』であることは確かだ」


その名を聞いた瞬間、円卓の空気がわずかに重たくなった。


「我々の最終目標は、ロキとサタンの討伐だ。だが、それに至るまでにほかの悪魔たちの妨害を潜り抜けなければならぬだろう。どれも単独で災厄級だ。舐めてかかれば―――命はない」


バールの声は静かだったが、その響きには容赦のない現実が込められていた。

重々しい沈黙が広がるなか、円卓を囲む者たちはみな、まっすぐに前を見据えている。


「覚悟はできています」


そう呟いたのはルーインだった。

淡々とした口調ではあるものの、燃えるような闘志が瞳に宿っている。


「ぼ、僕も覚悟できてます……!生き残った僕たちは、その意味を果たすためにもここで終わらせちゃいけない」


ルーインに続いて、フィールが立ち上がった。

すると、その隣にいるベルも、ゆっくりと立ち上がる。


「やるしかないってことですよね?誰が相手でも、私たちで止める」


その言葉に、マリアやイーネ、ユーリが視線を合わせた。

そして、全員の視線が自然とエルクへと向けられる。


「俺は―――父さんの意志を継ぐ。この世界を守るために、ロキを……サタンを倒す。―――必ず」


エルクの宣言に、誰もが言葉なく頷いた。

バールは静かに目を閉じ、息をひとつついてからこう告げた。


「よし―――それぞれの任務と配置は、追って伝える。今日、この場で覚悟を固めた者たちは、すぐに行動に移れ。残された時間はわずかだ。訓練を怠るな。連携を磨け。その日を―――必ず生き抜くんだ」


こうして、重くも確かな未来へ向けて中央教会での戦略会議は幕を下ろしたのだった。



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