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第十六章〜新契〜③

その後、部屋を出たエルクは外で待っていた仲間たちに出迎えられた。

彼の姿を見つけたフィールが、すかさず駆け寄ってくる。


「エルク!どうだった!?」


期待に満ちた目に、エルクは少しだけ微笑み、頷く。


「……無事に契約できたよ。これで父さんの意志を継げる。悪魔たちを―――止めてみせる」


その言葉には、これまでになかった確かな重みが宿っていた。


「……そっか。よかった!」


フィールは安心したように笑みをこぼし、胸に手をあてる。

するとその背後から、どしりとした足音とともに、バールが近づいてきた。

そして、大きな手でエルクの頭をわしっと撫で、うれしそうに呟く。


「よくやった。さすが教皇の子だな」

「ちょ、ちょっと……髪がぐちゃぐちゃになるって……!」


エルクは苦笑しながら、少し照れくさそうに―――


「でも……ありがとう」


エルクがそう言うと、バールはニッと口元を緩めてもう一度ぐしゃりと頭を撫でた。


「やめっ……本当に髪が……!」

「ははっ、そもそも整っているような髪でもないだろう?」


儀式が終わり、やわらかな空気に包まれて、エルクの顔に笑顔が戻る。

だが―――それは束の間のことでもあった。


「バール様!異常気象に関する報告が届きました!」


ひとりの教会員が急ぎ足でやってきて、報告書をバールに手渡した。

バールは表情を引き締め、目を通し始める。


「……やはり、そうか」


低く呟くと、彼は周囲を見回して全員にこう告げた。


「各支部長からの報告によれば、現在、この国アストリアにおいて異常気象が確認されているのは一か所。ここ―――アースヘルムだけのようだ」


その言葉に、みな顔を合わせる。


「どういうことだ……?」


疑問を持つエルクたちに、バールは重い口調で答えた。


「奴らは―――この中央に潜伏している可能性があるということだな」


その一言に、場の空気がぴんと張り詰めた。


「前回の襲撃以降、アースヘルムでは断続的に雨が続いていた。季節柄、さほど不自然には映らず、都市機能の充実もあって街に大きな被害はでていない。……だが、これは『偶然』ではない」


バールは報告書を閉じ、拳を握った。


「これはサタンの力―――いや、『存在するだけで世界に歪みをもたらす』とされる憤怒の王の影響だ。奴はまだこの地にとどまり、終末の日に向けて何らかの準備を進めているのだろう」


一同は言葉を失い、重い沈黙に包まれた。

そんななかで、フィールが低く呟くように問いかける。


「じゃあ……またマリアたちを狙ってくるかもしれないってこと……?それが終末の日……?」

「そう考えるのが自然だ」

「そんな……」


バールの言葉に、マリアは息を呑んだ。

その様子を見たエルクがぐっと拳を握る。


「でも『終末の日』っていつなんだ?」


エルクの問いに、ハイントスマンが静かに口を開いた。


「おそらく……『一年でもっとも日が短い日』と『新月が重なる日』であろう」

「『もっとも短い日』と『新月』……」

「数十年に一度、あるかないかじゃが―――奇しくもその日は今年、あと数週間後に訪れる」


ハイントスマンの言葉に、一同はざわめいた。

終末の日がそのときだとすれば、備えるには時間が少なすぎるのだ。


「その日は、陽が早く沈む。月の灯りすらも昇らず、世界から『自然の光』が完全に消える夜が訪れるというわけじゃ」


空気を凍らせるような重い言葉に、みながその『日』を想像する。


「悪魔たちにとって、その日は最大限に力を引き出せる日となるじゃろう。それは―――ロキにとっても好都合……いや、もっともふさわしい舞台だと、捉えておるかもしれぬ」


一同の表情が引き締まる。

誰もが黙り込むなかで、全員の胸には同じ思いが広がり始めていた。


「……で、あれば―――」


沈黙を破ったのは、バールだった。

彼は一歩前に出ると、場にいる全員に聞こえるよう、ハッキリと言い放つ。


「我々は、その日に合わせて戦いの準備を進めなければならない。エルクはオーディンと契約したばかりで、力に慣れていないだろう。これまでの訓練を継続し、さらなる強化を図れ」


その言葉に、エルクは黙って頷いた。

自身の中に流れる力を感じつつ、重責と覚悟を今一度、胸に深く刻みつける。


「各々、個々の力を高めるためだけでなく、連携の制度を上げることにも集中するように。……これからの戦いは、単独では勝てぬ。力を束ね、心をひとつにせねばならないだろう。そして―――」


バールの表情が、一層引き締まる。


「この戦いには、エクソシストやシスターたちの協力も不可欠だ。彼らの戦力なしに、終末の日を乗り越えることはできないだろう」


その瞬間、マリアやイーネがわずかに背筋を伸ばした。

静かな決意が場を満たしていき、彼らは無言ながらもそれぞれの胸に覚悟を刻んだのだ。


そして一同は、誰もがその日までの時間を悔いなく過ごすため、己のすべきことへと向かっていったのだった。


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