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第十六章〜新契〜①

武器と契約神を失ったエルクは、教会の隅で呆然と座り込んでいた。

あまりにも大きすぎる現実に、心が追いつかないのだ。

拳を握りしめることも忘れ、ただ虚ろな目で崩れた床を見つめる。


「エルク……!無事だったのね……!」


そう言って駆け寄ってきたのは、マリアだった。

続くようにしてフィールやベル、そして元の姿に戻ったライナスもエルクの側に駆け寄る。


「みんな……ごめん。俺もう……戦えない……」


エルクの声は、掠れていた。


「ロキに裏切られて……契約も、武器も……全部失った。俺にはもう……何も残ってない」


その言葉に、みなが言葉を詰まらせる―――そのときだった。

コツ、コツ、と重みのある足音が響いてきたのだ。

振り返るとそこに、ハイントスマンが歩いて来るのが見える。


「……状況は把握しておる。ロキめ、初めから裏切っておったんだな」


彼は静かに語りながら、エルクの前に立った。

そして屈み、その目をまっすぐに見る。


「だがエルクよ、諦めるのはまだ早い」


その言葉に、エルクの瞳が揺れる。

「諦めるのはまだ早い……って……?」


戸惑いと希望が混じる声で問うと、ハイントスマンはゆっくりと頷いた。


「まだ、おぬしには力を使う方法があるかもしれんのだ。ひとつ―――アテがある」

「アテ……?」


するとハイントスマンは、まっすぐにエルクの瞳を見据えて言った。


「『オーディン』との契約だ」

「!?」


その言葉に、エルクの目が見開かれた。


「オーディンって……父さんの……」

「そうだ。おぬしの父、ロイド様が契約を結んできた神『オーディン』。今、この世界で彼と契約できる者がいるとすれば、それはおぬしじゃろう」


ハイントスマンの声には、確信があった。

それは、長年の経験と知識が導き出した答えであり、同時に強い信頼の表れでもある。


「でも……俺はロキに裏切られて……そんな資格があるのかどうか……」

「資格は……自分で証明するものだろう?ロイド様も、そうやってこの教会の頂に立たれた。おぬしもまた、『選ばれる者』ではなく『選ばせる者』になるのじゃ」


ハイントスマンはそう言い、エルクの肩に手を置いた。


「ロキとの契約は、紛い物だったかもしれん。だが、おぬしはそれを三年以上も保っていた。それは―――力でも意志でも、誰にも劣らぬという証じゃろう。その力は……決して無意味ではなかったはずじゃ」


その言葉に、エルクははっと目を見開いた。

旅の中で出会った仲間や救った命、戦った日々は偽りではないのだ。

ロキとの契約が偽りのものだったとしても、そのすべてが消えるわけではない。


「そうだよな……無駄になんてならない……」


胸の奥に微かに光が灯るのを感じたエルクは、その光を手放すまいと強く拳を握りしめた。


「教えてくれ……!俺、父さんと交わした約束があるんだ……!」


確かな覚悟が宿った瞳に、ハインストマンは満足げに笑みを浮かべる。

そして―――


「うむ。―――だが、焦るでない。神との契約には、準備がいるものだ。ましてや相手は『オーディン』。―――時間が必要じゃろう」

「時間……?俺は何をすれば……」


エルクの問いに、ハイントスマンはじっと彼を見据えた。

そして、少し低めの声で


「強くなれ。ただひたすらに―――強くなるのじゃ」


と、言い放った。

前のめりになりそうになるエルクを制し、落ち着くよう促す。


「肉体だけでなく、心も技も鍛えるんじゃ。オーディンにふさわしい者とならねばならん。『終末の日』まではまだ日があろう。そのときまでに、ひとつでも多くの力を蓄えておけ」


その言葉に、エルクは力強く頷いた。

するとそのとき、奥からバールたち枢機卿が姿を現したのだ。


「話は聞いていたぞ。そうと決まれば―――お前の面倒は俺がみてやる!」


腕をぶんっと振り上げながら、バールは笑った。


「では、私はフィール、ライナス、ベル。あなたがたの実践指導をいたしましょう」


ルーインが落ち着いた口調で続け、さらにオリヴィアも一歩前に出た。


「天使のサマナーたちは、私が。戦場に出る覚悟が必要になりますからね。少しでも力を引き出せるよう、サポート訓練をしましょう」


こうしてエルクたちは、枢機卿たちによる訓練の日々へと入っていったのだった。



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