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第十五章〜光の復元と闇の喪失〜⑤

「っ……!」

「あ、あんなの防ぎきれない……!」


次の瞬間、その影が大砲のように弾け、フィールとベルは吹き飛ばされてしまったのだ。


「ぐはっ……!」

「きゃあっ!!」


二人は石壁に叩きつけられ、身体からは血飛沫が舞う。


「何ひとつ届かぬ力で吠えるな。我に抗おうなど―――滑稽でしかない」


ルシファーが淡々と語るなか、フィールとベルは必死に立ち上がろうとしていた。


「これくらいで……倒れるわけにいかない……!」

「負けないんだから……っ!」


こうしてフィールとベルがルシファーに向き直ったとき、石壁の向こう側ではエルクとライナスがサタンを睨みつけていた。

サタンは『ライナスの身体』をゆらゆらと揺らしながら、不気味に笑っている。


「……来いよ、英雄気取りども」


ニヤつきながら手を広げたサタンに、エルクは空間からレーヴァティンを引き抜いた。

そして―――


「ロキ!手を貸せ!!」


その叫びに応え、ロキはエルクの背後から空間を割って現れた。

興味深そうな表情でサタンを見つめ、まるで舞台の幕が上がる瞬間を楽しむ観客のように口角を上げる。


「こんな状況で呼ばれるとはねぇ……」


ロキはため息まじりに呟きながら、宙で指を回した。


「足元を押さえつけてあげるよ。ほら―――行っといで?」


その瞬間、サタンの足元の空間がぐにゃりと歪み、床石が軋むような音をたてた。

サタンの動きが鈍ることを予測したエルクは踏み込み、レーヴァティンを高く構える。


「うおおおおおっ!!」


エルクの怒声とともに、レーヴァティンが閃光のように振り下ろされた。

狙いは正確で、サタンの肩口を切り裂く―――はずだった。

だが―――


「なっ……!?」


斬撃が確かに命中したはずのその瞬間、エルクは『手応えのなさ』を感じ取ったのだ。

レーヴァティンは、まるで濡れた砂に突き刺さったかのように深くめり込み、肉を断つ感触も骨を砕く抵抗もない。


「どうした?もっと来いよ」


サタンは涼しい顔のまま、血飛沫ひとつあげずにニヤリと笑う。


「はっ……?え……?」


エルクが呆然とする隙を見逃さないサタンは、その腕をエルクの胸元に突き出した。


「返してやるよ、その攻撃」


そう言った瞬間、エルクは吹き飛ばされ数メートル先の石壁に叩きつけられてしまった。


「ぐっ……!」


床に転がるエルクの口から、鮮血が飛び散る。

その光景に、ライナスは大鎚を構えながら呻いた。


「ありえねぇ……兄貴の剣が効かないなんて……」


歯を食いしばり、ライナスはミョルニルを振りかぶる。


「ふざけやがって……!喰らえっ!!」


地を砕く勢いで踏み込んだライナスは、雷を纏わせた大鎚をサタンへと振り下ろした。


「おぉ、今度はこっちか。楽しませてくれよ?」


ライナスの攻撃を受ける気でいるサタンは、両手を広げた。

そして、真正面から大鎚の一撃を―――受け止めたのだ。


ドォォン!!という凄まじい衝撃音が響き、地面に亀裂が入る。

だが―――


「!!」


ミョルニルは、確かに命中した。

サタンの頭頂から地面に叩きつけるつもりで―――ライナスは渾身の力を込めたのだ。

その衝撃は、確かに届いたはずなのに……サタンはわずかに首を傾げただけで、鼻で笑うように言い放つ。


「おいおい、これで本気か?とんだ期待外れだな」

「なっ……!」


ミョルニルを引き戻したライナスの手が、震えていた。

自分の力が通じないことを、身体が嫌でも理解していたのだ。


「ほら、次はどうする?まだ遊ぶんだろ?」


ニヤリと笑うサタンに対し、ライナスは歯を食いしばりながらも再びミョルニルを構え直した。

そのとき―――


「……っぐ……ああっ……!?」


突如、ライナスは頭を押さえて膝をついた。

手にあったミョルニルを石畳に落とし、呻きながら崩れ落ちていく。


「あ……頭が…っ……かき乱される……!」


ライナスの叫びは苦悶に満ちていた。

そしてその声は徐々に濁っていき、別の何かに飲み込まれていくような不穏な響きを帯び始める。


「ライナス!どうした!?」


エルクが駆け寄り、その肩に手を伸ばす。

するとライナスはその手を払い退けたのだ。


「来るなッ……!!」


ライナスが絞り出すように叫んだその瞬間、石畳を軋ませながらサタンがゆっくりと歩み寄ってきた。


「やれやれ……なかなか手のかかる器だな」


低く、くぐもった声でそう呟いたサタンは、ライナスの前に立ち止まると無防備に頭を垂れている彼の頭に手を伸ばした。

そして、その手が頭に触れた瞬間―――


「……っ、あ、あああああッッ!!」


ライナスは絶叫し、全身を仰け反らせたのだ。

そして、膝をついたままがくんと力が抜け、崩れ落ちていく。


「ライナス……!?」


エルクは思わず息を呑み、一歩踏み出した。

その声に応えるように、ライナスはゆっくりと起き上がったのだ。

そして―――


「……来るなよ、エルク」


低く濁った声でそう告げた瞬間、ライナスはエルクの胸を掌で強く突いた。


「なっ……!?」


突如として身体が浮き、エルクは何もできぬまま石壁へと吹き飛ばされてしまった。

鈍い音をたてて地面に崩れ落ち、鮮血を吐く。


「がはっ……!」


エルクが呻きながら顔を上げると、そこには―――

ミョルニルを手に冷たい瞳で見下ろすライナスの姿があったのだ。


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