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第二章 〜港町の略奪者〜②

夜の街を歩き、荷車の並ぶ宿場町へとたどり着いた二人は、ルーンへ向かうという運送業の中年男性に頼み込み、朝を待たずに出発させてもらった。


「重たい荷は積んでねぇからな、揺れるけど我慢しな」

「助かるよ」

「すみません、お願いします」


ごつごつとした木の荷台に身を預けること数時間。

水平線が白み始めるころ、荷馬車はルーンの外れに到着した。

かつて栄えたその街は、ひどく乾いていることが窺える。

地面はひび割れ、街の入り口にあった小さな水飲み場は底が干上がって泥が固まってしまっていた。

空を見ても雲一つなく、風が吹いても海の匂いはしない。


「……本当に、雨が降っていないんだな」


ぽつりとつぶやいたエルクの視線の先には港があった。

帆をたたんだまま朽ちかけてる漁船を見て、機能していないことを悟る。

通りに立つ人々はどこかやつれ、表情がない。


「異常気象…だけじゃなさそうだな。何かが起きてそうだ」


エルクは腰の後ろに手を添え、まるでそこにある『何か』を確認するようにそっと触れた。

その後、街を歩き始めたエルクとフィールは、人の気配を探しながら通りを進む。


かつて港町として賑わっていた名残りか、ところどころに漁具や干物用の棚が見える。

しかし今は使われていないのか、風が吹くと寂れた音を立てている。


「まるで…時間が止まってるみたいだね」


フィールがつぶやくと、エルクは潮風で錆びた看板に手で触れた。


「止まってるんじゃない。『止められた』んだ」


エルクの目は、遠くにある船着き場を見ている。

そのとき、通りの角に小さな人影があるのを見逃さなかったエルクは、そちらに足を向けた。

そこには白髪交じりの老婆が乾いた桶を抱えてうつむいている。


「…すみません、ちょっとお聞きしてもいいですか?」


フィールが腰を曲げて声をかけると、その老婆はゆっくりと顔を上げた。


「…あんたたち…旅の人かい…?」


老婆は目の下に深いクマを作り、喉が枯れているのか声はか細い。


「はい。教会から来ました。最近、この街でおかしなことは起きていませんか?」


その言葉に、老婆は目を見開いた。

そして、左右を見回した。


「…見たんだよ」

「『見た』?何をですか?」

「海から這いあがってくる、黒い影さ」

「黒い影?」

「あれが雨を奪ったんだ…!そうに違いない…!」


興奮気味に話す老婆だが、その声は至極小さい。

まるで、周りに聞かれてはいけないかのようだ。


「最初はな、船乗りたちが見たって言ってたんだ。でも…次々に行方不明になっちまったよ。それも船ごとだ!まるで…霧の中に消えたようにな…」

「霧……」

「この街は…もうすぐ沈んじまうだろう…」


老婆の声は震え、桶を持つ手が小刻みに揺れていた。

その様子を見たエルクは、辺りを見回すように首を大きく振る。


「…フィール、やっぱりこの街にも『いる』」


そして、胸の奥ではそれが「ライナスかもしれない」という考えが彼の心を重くしていた。

港のほうから吹く風に、胸がざわつく気がする。


「…海に行くぞ、何かありそうだ」


そして、街の中央にある古びた店にいた中年の男性に声をかけたフィール。


「街で何かおかしなこととか起きてませんか?」


すると、その男性は少し困ったように話し始めた。


「あー…あまり外の人には伝えたくないんですけど…」

「何かあったんですか?」


男性は視線を上げ、港のほうに視線を送った。


「あそこに灯台があるのが見えますか?あれはエーギルを祀っているものなんですけど、先々月くらいに荒らされてることが判明したんです」

「え……!?」

「住民がエーギルの好む酒を供えに行ったとき、神器が入った箱がなくなってしまっていて…そのころから雨が降らなくなったと思います」


そう話す男性は、続けてこうも話した。


「ちょうど荒らされた日に、金髪の女性が目撃されてるんです。おそらく、ユーリスさんの家の娘さんじゃないかと」

「ユーリスさん?」

「えぇ、漁師をされてる家なんです。お父さんが漁に出てからもう何か月も帰ってきてなくて…私たちも心配しているんですけど…ちょっと最近おかしいような気がして…」

「おかしい?」


すると、男性は口に手を添え、周りに聞こえないように小声で話し始めた。


「昼間に海をずっと見ていたり、灯台の周りをうろついていたり…何か焦っているような雰囲気が見えたんです。まぁ、父親が帰ってくるのを待ってるんでしょうけど…」


その言葉に、エルクとフィールは顔を見合わせた。


「お話を聞かせていただき、ありがとうございます」

「いえ」


礼を言うと、二人は『金髪の女性』を探して歩き始めた。

幸いにもこの街には黒色や茶色系の髪色の人が多く、『金色』はすぐに見つけれそうだった。


「フィール、いたぞ」


さっそく『彼女』らしき人物を見つけたエルクは、地を蹴って走り出した。


「ちょ……!エルク!?」


フィールが呼び止める間もなく金髪女性のもとに到着したエルク。

彼はその女性の腕をがしっと掴み


「お前か?神器を盗んだのは」


と、どストレートに聞いたのだ。


「は!?なんなんだよ、あんた!!」

「俺はエルク。この街で雨が降らない原因を探しにきたんだ」

「はぃ!?」


不審者と呼ばれても仕方のない行動に、追いついたフィールは二人のあいだに割って入る。


「すみませーん、ちょっとお話聞かせていただきたいだけなんで、今のことは忘れてくださいー」


エルクと違って笑顔を見せるフィールは、エルクが掴んでいた彼女の手を離させ、代わりに握手をした。


「僕、サウシアから来たフィールっていいますー。さっき、エーギルの神器が盗まれたって話を聞いて、いろんな人にお話を伺っているんですー」


握手した手を豪快に振るフィールに、金髪の女性は鬱陶しそうに振り払う。

そして、低く鋭い目つきで二人を睨みつけた。


「……あんたたち、どこまで知ってんの?」

「灯台が荒らされて神器がなくなったこと。それと、お前が現場から走り去るのを見たっていう目撃情報だな」


エルクがズバリと告げると、女性の肩が一瞬だけぴくりと揺れた。


「ちょ、ちょっとエルク!もうちょっとオブラートってものを…!」

「あ?回りくどいのは面倒だろ」

「もうっ…!」


フィールが頭を抱える一方で、女性はふんっと鼻を鳴らして口を開いた。


「…えぇ、そうよ。私が盗んだの。文句ある?」


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