第十五章〜光の復元と闇の喪失〜③
一方そのころ、ベルフェゴールが静かに口を開いていた。
その声は重低音のように空気を震わせ、空間に染み渡るように響き始める。
「―――眠れ、そして従え」
その言葉と同時に、ベルフェゴールの低い声が周囲に広がっていく。
重く淀む空気に、教会員たちは次々と顔を歪めたのだ。
「ぐっ……!?頭が……」
「く、くらくらする……」
声を浴びた教会員たちの中で、数名……いや、十数名がその場に膝をつき始めた。
彼らの瞳からは次第に光が失われていき、虚ろな眼差しでこちらをゆるりと振り返る。
「っ……洗脳か!」
ライナスが叫んだと同時に、操られた教会員たちは無表情のまま武器を構えた。
「お、おい!?やめろ……!」
「戻れ!自分を失うな!」
洗脳を免れた教会員たちが必死に声をかけるものの、その言葉は虚空に吸い込まれるように届かない。
ゆらりと迫ってくる操られた教会員たちを傷つけないよう、立ちまわり始める。
「間違っても殺すなよ!昏倒させろ!!」
洗脳を免れた教会員たちは、攻撃を避けながら応戦するものの操られている教会員たちは倒れてもすぐに起き上がってくる。
感情のない瞳は、戦闘に対する恐怖もためらいも見せない。
まるで、命じられた行動だけを繰り返す人形のような教会員たちに、洗脳を免れた教会員たちの背筋が凍り始める。
「なんてことだ……!」
「魂まで支配されているのか……!?」
次第に追い詰められていく彼らのもとに、ある声が飛んできた。
「下がって!ここは私たちが……!」
そう言って駆けつけてきたのは、マリアとリン、イーネだった。
彼女たちは即座に状況を把握し、それぞれが天使の力を解放してベルフェゴールに立ち向かう。
そのときだった。
「遅れてすみません。援護します!」
その言葉とともに、奥からもうひとり女性が現れたのだ。
彼女はシルバーの長い髪をストレートに流し、銀色に輝く瞳をもっていた。
修道服を身にまとい、神聖な雰囲気をもちながらもその足取りにはためらいがない。
「私はユーリ。ユーリ=マークス。ミカエルのサマナーです!」
戦闘に長けている彼女は、状況を一瞥すると祈るように手を合わせた。
そして―――
「―――ミカエル、力を」
彼女の声に応えるように、手に光が集まり始める。
そして純白の炎が生まれ、力強く揺らめいて空気を震わせた。
「ベルフェゴールのもとへ―――行きなさい」
その瞬間、ユーリは両手を広げてその炎を解き放った。
炎は弧を描きながらベルフェゴールへ向かって走り、白銀の閃光が闇を裂いていく。
「ぐあああああぁっ……!」
純白の炎に焼かれたベルフェゴールは、その炎を消すように腕を大きく振り払った。
「お前……その炎はやっかいだな……」
炎を消したベルフェゴールの身体は、ほんの少し焦げつき、黒煙を上げていた。
ベルフェゴールは忌々しげに呻きながらも、不気味な笑みを浮かべている。
「だが面白い。その攻撃―――いつまで俺に向けられるかな?」
ベルフェゴールは大きく口を開き、腹の底から重低音を響かせた。
すると空気が震え、床がわずかに振動し、倒れていた教会員たちが再び動き始めたのだ。
それだけでなく、今まで洗脳を免れていた教会員たちも虚ろな瞳に変わっていく。
「う……あ……」
「意識が……もう……」
その様子に、マリアたちは息を呑んだ。
「みんなしっかりして!」
マリアが叫ぶものの、その声は届かない。
教会員たちは武器を手に取り、マリアたちに襲いかかってきたのだ。
「すごい力……っ!」
「くっ……!仕方ありません!」
ユーリは教会員たちから少し離れるようにして距離を取り、手を合わせて祈り始めた。
「マリアさん、リンさん、イーネさん……!教会員たちをお願いします!私はベルフェゴールを……!」
マリアはすぐに頷き、教会員たちに向き直った。
「わかったわ!任せて!」
「絶対に誰ひとり失わせないんだから!」
「私も全力で援護します!」
その言葉を同時に、ユーリの手に純白の炎が灯り始める。
その炎は先ほどよりも大きく……大きく……大きく―――
「なっ……!?」
「今回の炎は比べ物になりませんよ。―――覚悟してください!」
ユーリの声が響き渡った瞬間、彼女は特大の炎をベルフェゴールに向けて解き放った。
見た目に合わない轟音とともに、炎は巨大な弧を描きながら闇を裂き、一直線に奔っていく。
「ちっ……!」
ベルフェゴールはその身を捻り、炎の直撃を回避しようとした。
だが、ユーリの放った大きすぎる炎は避けきれることができず、その身に浴びてしまう。
「ぐああああぁっ!!」
その瞬間、操られていた教会員たちの瞳が揺らぎ始めたのだ。
「うっ……」
「あれ……俺は何を……」
次々に理性を取り戻す教会員たちを見て、マリアたちは互いに顔を見合わせた。
「このまま一気に……!」
「ええ……!行きましょう!」




