第十五章〜光の復元と闇の喪失〜①
翌朝―――
教会の駐屯地から新たに派遣された馬車に乗り換えた一行は、アースヘルムへと帰還した。
曇天の下、街の中を馬車で進んでいると、遠くの空で雷が鳴り始めたのだ。
次第に雨が降り始め、一同は馬車から空を見上げる。
「森の中で雨にあたらなかったのは幸いでしたが……」
ぽつりと呟くオリヴィアに、フィールは肩をすくめた。
「嵐になりそうですね……」
窓越しに降る雨を見つめる視線の先で、空はますます暗くなっていく。
ぽつぽつと降り始めた雨は、いつしか激しい音を馬車の屋根に打ちつけ始め、中央教会に着くころには石畳は水たまりに。
「みんな、フードをかぶって降りなさい」
オリヴィアの指示のもと、エルクたちはフードをかぶり馬車から降りる。
そして、足早に教会の中に入り、ローブについた雨を手で払う。
「このまま会議室に向かいましょう。バールに報告するわ」
オリヴィアの言葉に、一同は頷き合いながら教会の奥へと歩いていく。
廊下の高窓を打ちつける雨音が耳に響き、遠くでは雷鳴が轟いていた。
それはまるで―――空が不穏な気配を告げているようだった。
やがて重厚な扉の前に辿り着き、オリヴィアがノックする。
すると、中から「入れ」と、バールの声が響いたのだ。
「戻ったか。状況を聞こう」
会議室では、バールとほかの枢機卿の姿もあった。
重々しい空気が会議室を支配しており、エルクたちは息を呑んだ。
「今回の任務で……ベルフェゴールの復活を確認しました」
オリヴィアが一歩前に出てそう告げると、会議室の空気が一層重く沈んだ。
枢機卿たちの表情が険しくなり、ざわめきが静かに広がる。
「ベルフェゴールか……」
「現世に蘇ったというのか……」
沈痛な声があちこちから漏れるなか、バールが手を上げる。
すると、室内はすぐに静まり返った。
「詳細を。オリヴィア」
「はい。ベルフェゴールは、現地ハイル村の奥深くで復活しました。おそらく、崇拝教の手によるものと思われます」
「やはり奴らか……」
「また、別の脅威とも交戦しました。姿形を自在に変え、分裂・融合を繰り返す存在です。戦闘中の特徴と、発した言葉から―――復活したアスモデウスである可能性が高いと推察されます」
枢機卿のあいだで、驚きが広がる。
重々しく沈んでいた空気が、一気に緊張感を孕んだのだ。
「アスモデウスまでも……!」
「信じがたい速度で事が進んでいる……」
各々が眉を寄せ、顔を見合わせる。
重鎮たちでさえ動揺を隠せない事態に、エルクたちは固唾を飲んで見守っていた。
「ベルフェゴールにアスモデウス……大罪の悪魔二体に襲われながらも―――全員無事で生き延びたのは奇跡だ」
バールはそう言葉を発すると、天井を仰ぐように目を閉じた。
そして―――
「今宵は嵐も迫ってきてる。これ以上の情報は、また明日以降に精査しよう」
枢機卿たちも静かに頷き、その場は解散となった。
一行は会議室をあとにし、各々部屋へと帰っていく。
そして数時間後―――
エルクはひとり、束の間の安堵とともにベッドに身を沈めていた。
窓の外では、先ほどよりも激しさを増した雨音が続いている。
(ベルフェゴールにアスモデウス……)
頭の中で、先ほどの報告内容が何度も巡る。
休息しなければならないはずなのに、どうしても緊張と不安が抜けきれないのだ。
やがて、眠りと覚醒の狭間で時間が過ぎ―――
「ん……」
ふと目を覚ましたエルクは、寝苦しさのなかで身体をもぞもぞと動かした。
(水……)
喉の渇きを覚えたエルクは、ゆっくりと身体を起こした。
ベッドから足を下ろし、ローブを手に取る。
(雨……やみそうにないな)
ローブを羽織り、そっと扉を開けて廊下に出る。
深夜の教会内はひんやりとした空気に満ち、灯りも少なく心なしか薄暗い。
(みんなは眠ってるだろうな……)
静けさが支配する廊下で、エルクの足音だけが響く。
高窓から差し込む雷光が、一瞬だけ廊下を青白く照らし出す。
そんななか―――
バリバリッ―――!
雷鳴が空を裂き、窓の外が一瞬だけ白く染まった。
その閃光に合わせるように、廊下の奥でおぼろげに人影が浮かび上がる。
(……?)
エルクは、思わず足を止めた。
再び暗闇が訪れると、廊下は何もなかったかのように静まり返る。
しかし、次の瞬間―――
ピカッ―――!
再度雷光が走ると、今度ははっきりとその姿が映し出されたのだ。
銀と黒のツートンカラーの髪に、金色に輝く瞳。
それにくわえ、口元には貼りつくような異様な笑みがある。
「―――っ!」




