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第十四章〜多相の男〜⑦

ミョルニルを巨体の腹部へと打ち込むと、雷光が炸裂。

巨体は怒り狂ったように腕を振り回し、暴れ出したのだ。


「ぐあああああぁっ!!」


その腕は予測不能なほど暴れまわり、巻き込むようにしてフィールのもとへ向かっていく。


「うわっ!?」

「フィール!!」


間一髪で風を使って衝撃を逸らすも、フィールは肩を薙がれて岩場に転がってしまった。


「うぅ……いった……!」

「すぐ治すわ!」


オリヴィアがすかさず駆け寄り、フレイヤの癒しの光がフィールを包み込む。


「ありがとうございます、オリヴィアさん……!」


そのときだった。


「ぐはっ……!!」


フィールと同じようにライナスも巨腕に巻き込まれ、腹部に衝撃を受けた。

膝をつき、赤黒い血を吐いている。


「ライナス!!」


オリヴィアはすぐさま振り向き、ライナスに向けて癒しの光を放つ。

淡い光がライナスの腹を包み、じわじわと傷口を塞いでいった。


「くっ……ありがとう、助かった……!」


ライナスがゆっくりと立ち上がり、フィールが合流したのを確認したエルクは剣を握り直す。


「立て直すぞ!!」


戦場の緊張が極限に高まっていくなか、巨体の動きにも徐々に焦りが滲み始めていた。

全員の攻撃が集中し、巨体を激しく揺さぶっていくのだ。

風が進路を邪魔し、動きは読まれ、剣が肉を裂き、雷が肉体を貫く。


この状況に、巨体は一歩後退し、そして―――


「サタンを……返せぇぇぇっ……!!」


三つの頭が異様な咆哮をあげると、巨体は狂ったように暴れ出した。

巨大な腕が大地を叩き、木々を薙ぎ倒していく。

地面はえぐれ、倒木が飛び散るなかで一同は防御と回避に追われる。


「くっ……暴走してる……!」

「避けろ!!踏みつぶされるぞ!!」


だが、しばらく暴れたあと、巨体は肉体をぐにゃりと歪ませ始めたのだ。

筋肉と骨が流動し、形を崩していく。

そして四肢は伸び、背は低くなり、細長くしなやかな輪郭へと変化していく。


「あれって……馬……?」


その姿を見たフィールが、呆然と呟いた。

体格が大きいものの、黒光りするしなやかな馬が、そこにあったのだ。

だが、眼だけは禍々しい光を宿しており、牙のような歯を覗かせている。


「ヒヒィィィィンッ!!」


甲高い鳴き声とともに、異形の馬は森の奥へ向かって疾走する。

木々をすり抜けるように凄まじい速度で走っていき、エルクたちの前から逃走したのだ。


「逃げましたね……ですが、あのまま戦っていたらこちらも危なかったかもしれません」


ルーインが息を整えながら静かに言うと、オリヴィアは安堵の笑みを浮かべた。


「まずは、誰も倒れずに済んだことに感謝ね」

「でも……結局あれは何だったんだ?」


エルクが険しい顔で呟くと、ライナスは唇を噛みながらこう呟いた。


「『サタンを返せ』って言ってた……俺のことを狙っていたことは間違いないだろうな」

「―――となると、崇拝教の一味の可能性が高いわね」

「以前、ラムダルで狙われたときと、動きが似てる気がします」


オリヴィアとルーインが付け加えると、ライナスは苦しげな表情で俯いた。

その様子を見たエルクは、ゆっくりと口を開く。


「……警戒を強めよう。これからも同じような奇襲があるかもしれない」


その言葉に、フィールが続く。


「そうだね。でも―――」

「『でも』?」

「今はまず休もうよぉ……もうヘトヘト……」


ぐったりと倒れ込むフィールに、エルクが苦笑する。


「それもそうだが……この森、歩いて出なきゃなんないからな?」

「えーっ!?なんで……」

「だって馬車ねーし。馬もどっか行っちまっただろ?」

「うっ……」


フィールは膝に手をつき、しばらく空を眺めた。

その様子に、ルーインが辺りを警戒しつつ言葉を添える。


「引き続き注意は必要ですが、森を歩いて出るぶんには大丈夫でしょう。緊張と疲れもありますし、近くの宿で一旦、休息を取りましょうか」


その提案に、オリヴィアが頷く。


「ええ。今は無理せず、休息を優先しましょう。みんな疲れてるものね」

「じゃあ歩こうぜ。進めばそれだけ早く宿に辿り着ける。……そうだろ?フィール」


ライナスがミョルニルを肩に担ぎ、フィールに手を差し出した。

その手を取り、フィールは小さく笑う。


「ライナス……ミョルニルの代わりに僕を担いでくれてもいいんだよ?」

「……え」

「担いでよぉぉぉ……」

「やだよっ!!」


こうして一同は森を抜けるために歩き出した。

枝葉がこすれる音は、仲間と一緒ならば不気味さを感じさせず、さっきまでの激戦が嘘のように静かな森の音だけが彼らを包み込んだのだった。




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