第十四章〜多相の男〜⑥
ライナスが思わず声をあげるなか、『ライナス』と『エルク』はまるで吸い寄せられるように互いにぶつかり合ったのだ。
肉体が絡み合い、液体のように溶けながら融合していく。
「げっ……」
顔をしかめるライナスに、同じように呆然としてしまうエルク。
ルーインもまた、その光景を唖然と見ていた。
「敵がひとつになってくれたのはありがたいですが……」
ルーインがそう漏らしたとき、彼らのものとは違う叫び声が聞こえてきた。
「うわぁぁぁっ……!オリヴィアさん!ちょ、待っ……!!」
その声の主は―――フィールだった。
悲鳴に近い声に、エルクとライナス、ルーインは思わずそちらを見てしまう。
するとそこに、不気味な笑みを浮かべた『オリヴィア』がフィールを追いかけて走っていたのだ。
「え……あれも偽物!?」
「何体いるんだよ……」
「エルク!たすけてぇぇーーーっ!!」
フィールはエルクの姿を見つけると、風の力を最大限に解放した。
突風が彼の背を押し、木々のあいだをすべるように疾走していく。
風圧に煽られながらも岩を飛び越え、一直線にエルクを目指したのだ。
そして―――
「エルクぅぅぅぅ!!受け止めてぇぇぇ!!」
「は!?」
フィールは叫びながら、弾丸のような勢いでエルクに飛び込んだ。
咄嗟に受け止めたエルクは勢いに押されて数歩よろめく。
「お、おまっ……!せめて減速しろよっ!」
「無理だよぉ!怖かったんだからぁ!!」
涙目でエルクにしがみつくフィールだったが、その背後ではぬるり……と、不気味な音を立てて『オリヴィア』が『エルク』『ライナス』と融合を始めていた。
「また混ざるのか……」
ライナスの言葉を聞き、エルクは『オリヴィア』に目をやった。
「ぅげっ……」
眉をひそめるフィールの視線の先では肉塊が膨張し、骨が軋む音が響いていた。
筋肉が隆起するたびに大きくなる身体に、一同は息を呑む。
「どこまででかくなるんだ……」
エルクが呟くと、膨張が頂点を迎えたのか動きが止まったのだ。
完成した身体は黒光りしており、その巨体は3メートルほどあるだろう。
そしてその顔は三つに分かれて並んでいた。
ひとつは、牛の頭。
ひとつは、人の頭。
そしてもうひとつは、羊の頭だ。
それぞれがエルクたちを見据え、そして異様な唸り声をあげる。
「サタンを……返せ……」
その瞬間、ぞわりと背筋を撫でるような感覚を覚えた一同は、それぞれが武器を構えた。
「来ますよ!!」
ルーインが声を張ったその直後、その巨体は身体を揺らしながら突進してきたのだ。
巨大な腕が唸りを上げ、鋭く薙ぎ払われる。
「散開だ!!」
エルクが叫ぶと同時に、一同は四方へ飛び退いた。
その直後、木々の奥から駆け寄ってくる足音が聞こえ、オリヴィアが合流する。
「みんな、無事ね!」
追いついた彼女は状況を把握すると、すぐさま治癒の準備に入った。
「私は後方から回復を回すわ!気をつけて!」
こうして全員が無事に合流し、力を合わせて戦う布陣が整ったのだった。
「よし―――ここからは全員で押し切るぞ!」
「なんとしても、ここで決めましょう」
「兄貴、また合わせるか?」
「風で動きを乱すね!」
「回復は任せて。絶対に倒れさせないから!」
五人が三つの頭を持つ巨体を見据えると、その巨体は身体を揺らしながらエルクに向かって突進してきた。
「させないよっ!」
その突進をフィールの風が逸らし、ルーインが動きを読み取る。
「次!右から来ます!」
ルーインの予知が告げられた瞬間、巨体の腕が右から薙ぎ払われた。
それを紙一重でかわしたエルクに、ライナスが叫ぶ。
「兄貴!跳べ!!」
ライナスはミョルニルに雷を纏わせ、高く振り上げた。
放たれた雷撃が一直線に奔り、巨体の動きを僅かに鈍らせる。
「ナイス!ライナス!」
エルクはその隙を逃さず、宙を舞って巨体の肩口に一閃を浴びせる。
「ぐぉおぉぉ……!!」
巨体は苦しげに唸りながら後退するものの、その動きは止まってはくれない。
だが、『一撃を入れられる』ことに気がついた五人は、顔を見合わせた。
そして―――確信する。
「このまま畳みかけるぞ!!」
「いけますね!」
「意外と相性がいいみたいだな、この五人」
「よーし!突進は任せて!」
「全力で行きましょう!」
巨体が再び咆哮をあげ、三つの頭が不気味にうねる。
その大きな腕が持ち上がると、今度はルーインに向けて振り下ろされたのだ。
「その動きも読んでますよ!」
ノルンの力を使っているルーインは、踏み込みながら剣を突き上げた。
剣先が巨碗に深々と食い込み、血が飛び散る。
すると、その巨体は痛みからか身体をよろめかせたのだ。
その隙を狙って、ライナスが飛び込んでいく。
「喰らえぇぇっ!!」




