第十三章〜怠惰の顕現〜②
そして翌朝、陽が昇るころには教会の中庭に馬車が一台待機していた。
そのそばではフィールとライナス、オリヴィア、ルーインの姿がある。
「出発するわよ、みんな準備はいい?」
オリヴィアの声に、面々は頷いて馬車に乗り込む。
アースヘルムからハイル村まではおよそ三時間の道のりだ。
馬車が北に近づくにつれ、次第に気温が下がっていく。
やがて雪がちらつき始め、ハイル村に着いたときには一同の口から白い息が漏れていた。
「ここが……ハイル村……」
ハイル村は、一見すると静かな村だった。
うっすらと雪が積もる屋根の家々が並び、煙突からは煙が昇っている。
だが、その様子にはどこか違和感があった。
「誰も……いない」
ライナスが呟いたその一言に続くように、ルーインが目を細めた。
「この村、人が住んでいるのでしょうか。なんとなく人の気配がしますが、ちょっと変ですよね」
村を歩く一同のなか、オリヴィアが一歩先を歩くようにして一軒の家に向かった。
そして―――
「こんにちは、教会の者です。どなたかご在宅ですか?」
と、扉をノックしながら声をかけるが、返事はない。
静まり返る家に、辺りを見回す。
「ほかの家も同じでしょうかね……」
「ただ事じゃない雰囲気を感じます……」
どこか人のいる家がないものかと、エルクたちは雪が薄く積もる道を白い息を吐きながら進んでいく。
だが、耳に届くのは村人の声ではなく風の音と足音だけだ。
そのとき、フィールが一軒の家を指さして立ち止まった。
「あの家……窓が開いてない?」
その家は、少し古びた木造の家だ。
ほかの家々が戸を固く閉ざし、どこか不自然なまでに静まり返っているなかで隙を見せている。
「行ってみましょう……!」
ルーインが前に出て、足音を忍ばせつつ窓の下に近づく。
そして、ちらっと中を覗き込んだその瞬間―――彼女の表情が険しくなった。
「―――人が倒れています!男性のようですが……」
その一言に、エルクたちもすぐさま駆け寄った。
オリヴィアが家の扉に回り、手をかけるとぎぃ……と、古い蝶番が軋む音とともに扉が開いたのだ。
「失礼します、教会の者です!」
彼女の声が室内に響くが、返事はない。
床にうつ伏せの状態で横たわる高齢男性の姿があり、オリヴィアとともに素早く近寄ったルーインがその身をそっとあお向けにする。
「……っ」
彼の姿に、ルーインは息を呑んだ。
男性の口元からはよだれが垂れており、その瞳は虚空を見つめたまま微動だにしないのだ。
生気がまったく感じられず、まるで―――『生きた屍』のようだった。
「お願い、フレイヤ……力を貸して」
オリヴィアがそう呟き、契約神である『豊穣の神フレイヤ』の力をその手に宿す。
そして、温かな光が男性を包み込むが―――何も起こらなかった。
「だめだわ……。一体何が原因なのかしら……」
その様子を見たエルクとフィール、ライナスは、手分けをして近隣の家々を調べに走った。
開いてる扉を見つけては中に入り、確認していく。
しかし、どの家も時間が止まってしまったかのように、同じだったのだ。
「全員、生きてはいる。でも……」
まるで、魂が抜け落ちてしまったような人しかいないハイル村。
二人は急いでオリヴィアたちのところへ戻ろうとした。
そのとき―――
「……あれ?」
ライナスが不意に足を止めたのだ。
視線の先には、村の奥へと続く一本の小径がある。
「兄貴、あそこに道があるんだけど……」
呼ばれたエルクはすぐに足を止め、ライナスの指さすほうを見た。
すると確かに、小径があったのだ。
誰も足を踏み入れていないのか、雑草で覆われている。
「……ルーインたちに知らせよう」
エルクの言葉に、ライナスはこくりと頷いた。
そしてフィールと合流し、三人は急ぎ足で先ほどの家に戻る。
すると、三人の表情を見たルーインが、表情を引き締めた。
「……何か見つかったのですか?」
「村の奥に、小径がある。踏み荒らされた形跡がないから、村の人たちが近づくような場所じゃなさそうだ。もしかすると―――」
『何かがある』
そう察したルーインとオリヴィアは男性を床に寝かせ、家を出た。
周囲を警戒しつつ、ライナスが見つけた小径へと急ぎ、高く育った雑草をかき分けつつ進む。
すると、奥の奥に大きな岩が現れたのだ。
その大岩を見たライナスが、はっと息を呑む。




