第十二章〜潜む叛逆者〜②
葬儀がすべて終わり、人々の足音もまばらになったころ、墓地の一角にエルクはひとりで佇んでいた。
ロイドの名が刻まれた、新しい墓碑の前で、静かに手を合わせている。
「父親だってことを知った矢先に、こんなことになるなんてな……」
そう呟いたとき、ふわりと空気の揺らぎが生まれた。
気配を感じて振り向くと、そこにロキがいたのだ。
いつものように浮ついた表情で、肩をすくめながらエルクの隣に立つ。
「やっと静かになったねぇ。人が多いと僕は落ち着かないよ」
そう語るロキに、エルクは向き直った。
そして、真剣さを滲ませた声で―――
「ロキ、話がある。―――真面目な話だ」
と、まっすぐにロキを見据えたのだ。
ふざけた態度に見えて、その裏には何かを見透かすような瞳を持つロキ。
だが、今だけははぐらかされたくなかった。
「……何の話かな?」
ロキは小首を傾げ、いつもの飄々とした笑みを見せた。
しかし、エルクの真剣な表情に、わずかに揺らぐ。
「ここ最近……呼んでも応えなかっただろ。何度もだ。どうしてだ?」
問いかける声に、怒りや責めはなかった。
ただ、どうしても知りたいという思いがあったのだ。
自分と契約を結んだ存在が、呼びかけに応じなかった理由を―――。
「……キミに説明しても、納得してもらえるかどうかはわからないけどね」
ロキは視線を逸らすことなく、ふぅ、とわざとらしく長い息を吐いた。
「それでも聞きたい」
エルクの言葉に、二人のあいだにしばし沈黙が流れる。
やがてロキが踵を返すようにくるっと振り返り、声を低くして言った。
「―――誰かが、あいだに入っていたみたいなんだ。明確な妨害。キミの意識と僕を繋ぐ『通路』みたいなものに、薄い膜がかかってね、声が届かなかったんだ」
「それは……誰が?」
「さぁ?けど、ひとつだけ言えるのは―――」
ロキは首だけで振り返り、しばしロイドの墓に視線を落とす。
その表情からは、いつものふざけた色が消えていた。
「―――キミの父親は、本当に優秀な人だったよ。僕の悪戯にも引っかからなかった。あれだけの聡明さと信念を持っている人間は……滅多にいない」
ロキはそのまま静かに歩き出し、墓から離れていく。
そのうしろ姿に、エルクはこう問いかけた。
「ロキ……教会は、これからどうなると思う?」
するとロキはぴたっと足を止め、どこか遠くを見つめるように空を眺めた。
「どうなるか―――か。未来なんてわからないさ。でもね、キミが立っている限り、『変わる』ことだけは確かだよ。世界は止まらない。崩れても失っても、それでも前へ進むものなんだ」
その言葉を最後に、ロキの姿は霞のように揺らいだ。
そしてエルクが一度瞬きをしたその刹那―――ロキの姿はもうどこにもなかったのだ。
まるで最初からそこには誰もいなかったかのように、静寂だけが辺りを包む。
「変わる……か」
ぽつりと呟いたその声は、自分自身への言葉のように感じられていた。
教皇を……父を失った喪失感はまだ重く、胸にのしかかっている。
だが、ここで止まるわけにはいかないのだ。
「父さん……見ててくれよ」
そう言って背を向けると、エルクは歩き出した。
確かな未来へと足を進める一歩一歩に、覚悟を宿しながら―――。
―――こうして教会は教皇を失い、当面のあいだ、四人の枢機卿によって統治されることとなった。
空席となったその椅子に、正しき者が座るその日まで―――




