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第八章〜惨劇の都〜③

エルクたちは店主に礼を告げ、パンとスープを平らげると傾きかけた日差しのなかを歩き始めた。

郊外は、中心とちがって住宅がまばらに並び、風の音がはっきりと聞こえる。

やがて見えてきた目的の家は、木々に囲まれた白塗りの平屋だった。

庭先には古びたベンチが置かれ、干し草の香りが五人の鼻をくすぐる。


「ここだな」


エルクは玄関の前に立ち、小さくノックをした。


コン、コン。


そして、しばしの沈黙のあと、ゆっくりと扉が開いたのだ。


「……どちらさま?」


現れたのは、白髪まじりの茶髪をきちんと後ろでまとめた、穏やかな目の初老の女性だった。

首元には小さなロザリオが揺れ、深い信仰と真の強さを感じさせる。


「僕たち、中央教会から派遣された者です。少し、お話を伺いたくて―――」


フィールがひょこっと顔を出して頭を下げると、女性は困ったような顔を見せた。


「あっ……街の喫茶店の店主さんからの紹介でもありまして―――」

「え?そうなんですか?」


喫茶店の店主は有名な人のようで、彼の存在を出すと女性はにこやかに笑みを零したのだ。


「じゃあ、どうぞ」


扉が大きく開かれ、エルクたちは彼女の家に入っていく。


「わぁ、素敵ですね」


中に入ると、フィールがそう呟いた。

彼女の家は、どこか素朴で温かみがあったのだ。

太陽の光が差し込む床は木でできており、古びた絵画や植物があちらこちらに飾られている。


「ありがとう。あまりお洒落なものはないけれど……好きなものを集めているのよ」


彼女は微笑みながら、奥の部屋へとエルクたちを案内した。

通されたのは四角い木のテーブルが置かれた居間で、椅子はぴったり6つ。

年季の入ったカーペットが、足元に温もりを与えていた。


「どうぞおかけになって。お茶を淹れますね」


そう言って台所へと向かう背には、年齢を感じさせない凛とした姿勢があった。

エルクは静かに椅子を引き、目を細める。


「なんか……落ち着く気がするよな。こういう家、久しぶりかも」

「街の喧騒とは違う空気が流れてるよね」


フィールの言葉に、ベルも頷く。

やがて戻ってきた彼女は、温かな湯気の立つ紅茶と小さなクッキーの皿をテーブルに並べていった。


「お口に合うといいけれど」


その柔らかな声に、エルクは深く頭を下げる。


「ありがとうございます。俺はエルク=フリードマンです。中央教会から派遣されて、今回、この街を再調査することになりました」


エルクが名乗ったのを皮切りに、ひとりずつ順番に名乗っていく。


「フィール=フォールです。よろしくお願いします」

「ライナス=フリードマン……そこのエルクの弟です」

「私はベル。よろしくお願いしますっ」

「……ヴァン。エクソシストです」


各々の自己紹介に静かに頷く彼女は、自身の胸に手をあてた。


「私はバレンシア。こんなに若い人たちが来てくれるのは、何年ぶりかしら」


フィールは微笑みながら、湯気の立つ紅茶に軽く口をつけた。

そして、真剣な面持ちで尋ねる。


「僕たち、この街を改めて調査しているんです。前市長のトムさんのことなど、何か覚えていることはありませんか?」


その問いかけに、バレンシアはわずかに目を伏せた。

そして、ロザリオに指先を添え、ゆっくりと語り始める。


「……あの人は…とても優しい人だったわ。奥さんと娘さんを事故で一度に亡くしてしまってからは、心が壊れてしまったように見えたの。最初のころは、家からも出なくなってね……」


エルクたちは、彼女の言葉に耳を傾けていた。


「でも、ある日を境に突然変わったの。目に、光が戻ったのよ。何かを悟ったような目をしていて、笑顔も戻って……市長の仕事に打ち込むようになったわ。けれど―――」


彼女はそこで言葉を切り、しばし遠くを見るように窓の外へ視線を移した。


「その笑顔の奥に―――影が見え隠れしていたの。あれは……絶望を乗り越えた人の顔じゃなかった。何かにすがって立っている、そんな目だったわ」


彼女はそんなトム氏に違和感を覚え、自然と距離を置くようになったと言う。


「いつのまにか、街の高齢女性たちが姿を消すようになっていって……私は怖くなってサウシアに避難したの」

「それは―――直感で?」


フィールが聞くと、彼女は視線を戻した。

そして、ふっと笑い―――


「……鋭いわね。エルク、だったかしら?」


彼女は、再びロザリオに触れ、ゆっくりと口を開いた。


「ずっとね、隠してきたことがあるの。こうして世の中が静かに崩れ始めているのを見て……あなたたちなら話せると思った。―――いえ、話さないといけないときだと思ったわ」


静寂が室内を包むなか、彼女はこう言い放った。


「私は……純潔の天使『ウリエル』のサマナーよ」


その言葉は、まるで鐘の音のように部屋の空気を震わせた。

そして、一瞬の沈黙ののち、エルクは目を見開いたのだ。


「ウリエルの……サマナー……!?」


驚きの声が漏れ、五人は互いに顔を見合わせる。

これまで繋がらなかった点と点が―――確かに一本の線として、結びつき始めていたのだ。


(つまり、この街での事件はただの偶然じゃなかったってことか。ウリエルのサマナーをあぶり出すために崇拝教の大罪の悪魔たちが仕掛けた罠……)


エルクは、彼女が美徳の天使のサマナーだったと知り、ようやく胸の奥に引っ掛かっていた違和感が繋がるのを感じていた。

そして、拳を握りしめると静かに立ち上がる。


「ここは危険だ。すぐに中央教会へ移動の手配を―――」


そのときだった。

突如として窓の外から何かが飛来し、部屋に羽ばたくような風が巻き起こったのだ。

鋭利な鳥の羽根が、まるで刃のように窓を突き破る。


「なっ―――!?」


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