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第八章〜惨劇の都〜②

そして翌朝。

準備を済ませた三人は、冷たい朝霧が漂うなか、ラインバーグ行きの汽車が到着するのを待っていた。

それと同時に合流予定の人物を探す。


「結局、誰が来るんだろうな」

「外部のエクソシストと、教会所属の新しいサマナーとしか聞いてないから…知らない人かもよ?」

「俺はどっちにしても知らねーな」


三人がそんな会話をしていると、二つの足音がホームに響いた。


「よっ、待たせたな」


涼しい顔で手を挙げながらやってきたのは、見慣れた少年―――エクソシストのヴァンだ。

そして、その隣にいたのは―――


「……ベル!?」

「えっ……まさかルーンのときの……!?」


そう、そこにいたのは港町ルーンで出会った少女―――ベルだったのだ。

以前と比べ、ローブに身を包んだ彼女は、少し落ち着いた雰囲気を醸し出している。


「フィール……久しぶり。エルクも」


ベルは柔らかく微笑み、丁寧に頭を下げた。

前の彼女とは打って変わった様子に、エルクとフィールは困惑する。


そして……ベルの姿にライナスがぽつりと呟いた。


「……誰?」

「えっ、あぁ…そうか、ライナスは会ってないんだっけ」


フィールが苦笑しながら補足する。


「この子はベル。港町のルーンでの事件のときに、僕たちが助けてあげた子なんだよ。神器が盗まれた事件の―――」


フィールの説明に、ライナスは思い出す。


「あのときの被害者のひとりってわけか」

「そう。―――で、今日ここに来たってことは……」


フィールがベルを見ると、彼女はにこやかに笑みを零す。


「私ね、サマナーになったの。あのあと―――中央教会でサマナーについての勉強をさせてもらって……」


そのとき、ラインバーグ行きの汽車が駅に入ってきた。

汽笛を鳴らし、朝霧のなかを切り裂くようにゆっくりとホームに滑り込んでくる。


「続きは中で、だ。乗るぞ」


エルクは、教会から渡された切符を確認し、汽車に乗り込んでいく。

そのうしろを四人が続き、一同は六人席のコンパートメントに腰を下ろす。


「―――で、あの事件のあと、どうしてたんだ?」


エルクの問いに、ベルは窓の外を流れゆく街並みに目をやりながら、口を開く。


「あのあと、教会の人に連れられてアースヘルムに行って……サマナーの適性試験を受けたの」


彼女は、ヴァレファールと契約することができていたことから、教会は適性があると判断。

その後、筆記試験などを繰り返し、無事にサマナーになれたと語った。


「ヴァレファールってさ、悪魔だったんだよね。……皮肉な話だけど、今は精霊と契約してる」


その言葉に、エルクが身を乗り出す。


「へぇ、なんの?」

「秘密!」


いたずらっぽく笑い、ベルは口元に指を立てた。


「……チッ」

「ちゃんと頼りになる相棒だよ」


その笑みに、フィールはどこか安心したように息をつく。

するとベルは、ちらっとライナスに視線を送った。

彼女の瞳にはわずかな躊躇いと、好奇心が宿っている。


「それでその……そちらの……ライナス?さん?は、その……?」


ライナスは小さく頷き、視線を逸らすことなく彼女を見返した。

その仕草には、隠しごとをしないという覚悟がある。


「俺はエルクの弟。今は―――こんな姿してるけど、自分の身体を取り戻すため、奴らを追ってる」

「そう……だったんだ……」

「でも、俺は俺だから」

「そ…っか……」


五人は、各々思いにふけるように、視線を落とした。

窓の外では森が途切れ途切れに流れていき、時間が過ぎていく。


車輪の音だけが一定のリズムを刻み、誰も口を聞かないまま静寂が続いた。

気がつけば汽車はゆるやかに減速を始め、見覚えのある街並みが姿を現す。


「見えてきた……」


外を見やるフィールがそう呟くと、一同は視線を上げる。

それと同時に汽笛が鳴り、汽車はやがて駅に滑り込んだ。

石造りの駅舎に整えられた街路樹を見て、エルクとフィールは懐かしさを覚える。


「戻ってきたんだな……」


静かに呟くエルクの視線の先には、わずかながら活気を取り戻しつつある街の姿があった。

行き交う人々の表情は明るく、店の看板も新しくなっているところがある。


「街を見て回ろうか」


フィールの言葉に、五人は歩き始めた。

そのとき―――


「おや……?あんたたち……」


そう言って声をかけてきたのは、懐かしい顔―――以前出会った喫茶店の店主だったのだ。

灰色の髭に眼鏡をかけ、相変わらず古びたエプロンをつけている。


「あっ……!お久しぶりです!ご無事でなによりで……」


フィールが駆け寄り挨拶をすると、店主は目を細めて懐かしそうに笑った。


「おぉ、覚えていてくれたか。こっちも無事とは言えんが、なんとか生きてるよ」


その言葉に、エルクは安堵の息を漏らす。


「街も―――少し明るくなってきたな」

「なぁに、あんたらが暴れてくれたおかげさ。市長があんなことになっちまって、一時はどうなることかと思ったが……今は新しい市長さんが来てね、人の流れも戻ってきた」


エルクとフィールは顔を見合わせ、二人で笑い合う。


「そっか……、それならよかったよ」


だが、その表情に浮かぶ笑顔は、一瞬で真剣なものへと変わる。


「でも、俺たちはまだ終わったと思ってない。前に起きた事件について、もう少し詳しく話を聞きたいんだ」


その言葉を聞いた店主は、表情を曇らせた。

そして、周囲をさりげなく見渡し、声を落とすようにこう言ったのだ。


「……立ち話もなんだ、よかったら店に入りな。ちょうど夕方前だ、何か食べるものを出してやるよ」

「……助かる」


五人は軽く頭を下げ、店主のあとについて喫茶店へと足を踏み入れた。

扉の上の鈴がチリンと音を立てる。


「そこの窓んとこの丸テーブル使いな。ちょうど全員が座れるだろう」


五人は、言われた通りに窓際のテーブルへと腰を下ろした。

木の香りに包まれた店内は、かすかに焙煎の匂いが漂っている。

古びた椅子はかすかに軋み、その音がどこか懐かしさを感じさせていた。


「ほら、順番に回してくれ」


少しして店主が、湯気を立てたハーブティーとパン、スープを運んできた。

五人はそれぞれに礼を言いながら、手を伸ばす。

湯気に包まれたスープの香りが胃をくすぐり、一口飲めばその疲れた身体の奥にまで染み渡るようだ。


「……さて、事件のことだったな」


店主は五人をぐるっと見回すと、ゆっくりと俯いた。


「実はな、あのときに死んだ人間について、ある噂が残ってるんだ」

「噂?」


店主はハーブティーのカップを手に取り、重たく言葉を紡ぎ始める。


「死んだのは『みんな年寄りだった』って話は知ってるよな?でもな、そこを詳しく掘ると……襲われたのは『年老いた女たち』が多かったんだ」

「女……」

「ただの偶然だろうって話も多かった。だがな、もうこの街に残ってる年老いた女は、バレンシアさんくらいしかいない」

「バレンシアさん……?」


エルクが聞き返すと、店主は静かに頷いた。


「あぁ、昔からこの街に住んでる人だよ」


その言葉に、フィールが少し身を乗り出した。


「その方、どこに住んでるんですか?」

「少し外れのほうだな。白い小さな家だ」


そう言うと、店主はエルクたちが歩いてきた方向と、真逆の方向を指さした。


「話を聞きに行きたいんだけど……」

「大丈夫さ。俺の名前を出せば、扉くらいは開けてくれるだろう」


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