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第七章 〜雪国の天使〜③

エルクたち三人は、雪煙が舞い上がるホームに降り立つとすぐに駅を抜けて教会北支部へと向かった。

重厚な石造りの門をくぐると、冷たい風が堂内まで流れ込んでくる。


「ここが北支部か……思ってたよりずっと静かだな」


エルクがそう呟きながら、雪のついた袖を軽くはたく。

そこで教会員から案内を受け、三人はまっすぐ支部長室へと通された。


その部屋にいたのは、ひとりの年配男性。

髪をうしろで束ね、背筋を伸ばすその姿には隙がない。

その彼が―――この教会北支部長ゴードン=リビリだ。


「ロイドさんから話は聞いている。……入れ」


そういうと、ゴードンは無駄のない動きで引き出しから一枚の写真を取り出した。

それをエルクたちに差し出す。


「この女性を探せ。うちの支部でシスターとして奉仕している」


写真に写っていたのは、落ち着いた雰囲気を纏う若い女性だった。

黒髪のショートヘアが軽やかに揺れ、赤く深い瞳を持っている。

シスター服に身を包み、どこか人懐っこい笑みを浮かべる彼女は見る者に親しみと温もりを与えそうだ。


「彼女が―――人徳のラミエルと契約をしている」

「……!」


その一言に、エルクとフィール、ライナスの表情が引き締まる。


「わかりました。彼女は礼拝堂に?」

「そうだ。今の時間なら夕刻の祈りが終わったころだろう」


ゴードンは、それ以上何も言わなかった。

それが彼のすべてなのだろうと察した三人は、顔を見合わせる。


「ありがとうございました!」


一同に礼をし、エルクたちはすぐさま礼拝堂へと足を向ける。

北支部の教会内は広く、足早に進むもののなかなか礼拝堂が見えない。


「ここ、回廊になってるんだね」


ふと周りを見回したフィールがそう呟いた。

教会中央には大理石造りの回廊があり、外の冷気がわずかに通っていたのだ。

そこを歩き進め、奥に―――礼拝堂の扉を見つける。


「この中に……ラミエルと契約をしている人がいる……」


エルクは呟きながら、扉に手をかけた。

そして、静かにそれを押し開ける。


キィ……と、かすかに古めかしい音をたてた扉の向こうは、暖かな光に包まれていた。

色彩を帯びたステンドグラスの光が床に揺れ、祈りを終えたシスターたちが数名、掃除や整理をしていたのだ。


そのなかでひとり、祈りを捧げたまま静かに佇む女性の姿があった。


「……あの人っぽいね」


フィールがそっと呟いたとき、エルクの瞳はまっすぐその女性を捉えていた。

そして三人はゆっくりと彼女に歩み寄り―――


「すみません、ちょっといいですか?」


と、声をかけたのだ。

女性はくるりと振り返り、にこっと笑った。


「はい、なんでしょうか?」


その笑顔は写真の中の彼女とまったく同じで、エルクたちは確信する。


「君……ラミエルと契約してるサマナーだな?」


その問いかけに、女性は目を丸くした。


「はい……そうですけど……」


エルクは膝を折り、彼女に目線を合わせるとすぐに説明に入った。

大きく説明を端折りながらも、ラミエルと契約をしている彼女の保護が必要なことを―――。

「できればすぐに一緒に来てもらいたいんだが―――」


その言葉を聞いた瞬間、彼女の笑顔がふっと翳った(かげった)。


「それは……困ります」


一拍おいて、そう答えた彼女。

エルクたちは一瞬、言葉を失った。


「……なぜ?」


エルクが静かに問うと、彼女は少し困ったように微笑みながら目を伏せる。


「私、ここを離れるわけにいかないんです。父が……ひとりになってしまうから」

「父……?」


ライナスが反応すると、彼女は小さく頷いた。


「申し遅れました、私の名前はイーネ=リビリ。この北支部の支部長ゴードン=リビリの娘なんです」

「!」


エルクとフィール、ライナスは思わず顔を見合わせた。

多くを語らなかった支部長の娘が彼女だったとは、誰も思わなかったのだ。


「でも、あなたが狙われているのは間違いないんだ。中央教会で保護しないとその身に危険が―――」


フィールがまっすぐに言うと、彼女は小さく唇を引き結んでいた。


「わかって…います。でも、父は昔から人付き合いが苦手で、私がそばにいないとすぐ仕事ばかりに没頭してしまうんです。それに身体のことも心配ですし……」


そのとき、礼拝堂の奥で静かな足音が響いた。

低く、しかし確かな声が堂内に広がる。


「それなら、私から言おう」


その声に、一同は振り返った。

そこには支部長のゴードンが立っており、イーネが思わず立ちすくむ。


「時が来たのかもしれない。ラミエルが選んだ意味を、無駄にしてはならない」


その静かな声に、彼女は目を見開いた。


「でも―――っ!」

「大丈夫だから。何も心配しなくていい」

「―――っ」


イーネは手をぎゅっと握り、床を見つめる。

そして、か細い声で―――


「ちゃんと……食事してね…?」

「あぁ」

「仕事は日付をまたぐまでしちゃだめだからね…?」

「わかっている」

「一日一回は外に出て、太陽を浴びてくれる…?」

「もちろんだ」

「それと―――」


何度も確認するイーネを、ゴードンはそっと抱きしめた。


「大丈夫。お前にできる務めを……果たしてきなさい」


その言葉に、イーネはエルクたちに視線を合わせる。


「―――明日の汽車でいいのなら……」


それは、小さな声だった。

決して前向きとは取れない声色だけれども、エルクたちは安堵の息を漏らす。


しかしその夜――――――事件は起きたのだった。


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