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第三章 〜再会の森〜②

その翌日、無事にアースヘルムに到着した二人は、教会専用の馬車で中央教会に向かっていた。

街道を進む馬車は深い色合いの木製馬車だ。

丁寧に彫り込まれた装飾模様に、屋根は布張り。

雨風にも安心の造りのなか、エルクとフィールはどことなく顔を強張らせながら座っている。


車輪の軋む音と近づいてくる中央教会の気配に、二人は嫌な予感がして仕方ない。


「このままどっか違う街に行けたらいいのに…」

「ほんとそれ…」


馬車に揺られながら二人が肩を落としているとき、路地裏から女性の悲鳴が聞こえてくる。


「助けて―――っ!!」


その声を聞いたエルクとフィールは、すぐさま馬車から飛び降りた。

そして、声が聞こえた路地裏に駆けこむとそこに、フード姿の人物がインプをけしかけて女性を追い詰めていたのだ。


「―――ったく、アースヘルムは治安が悪いのか?」


エルクは腰元から剣を引く動きをし、異空間から大剣を取り出した。

それと同時にフィールも風を集め、構える。


「ロキ、少しだけ顔を貸せ」


そう声をかけた瞬間、黒い裂け目が生まれてロキが顔を出す。

彼が面倒くさそうに指で宙をなぞると、重力が歪み、インプの動きが止まった。

それと同時に、フード姿の人物も動きを止める。

ロキによる重力の歪みは、抗うことができないのだ。


「…今のうちだ!」


エルクとフィールはフード姿の人物とインプを取り押さえた。

女性の叫び声を聞いて駆けつけた教会員に引き渡し、事情を聞く。

すると、この人物はネクロマンサーだったようで、ただ自分の欲望のために女性にインプをけしかけたとのことだった。

大きな事件に繋がらないことに安心したエルクとフィールは、一呼吸置く。


そのときだった。


パンッ―――!!


乾いた銃声が響き、エルクの足元に銀色の弾が弾けた。


「なっ…!?」


反射的に顔を上げたそのとき、建物の屋根の上に、一人の少年が銃口をこちらに向けて立っていたのだ。

その形相は、決して穏やかではない。


「悪魔め……っ!」


そう言った瞬間、次の一発が撃たれた。


「エルクっ!!」


フィールが咄嗟に風を使い、弾道を逸らす。


「―――っ!」


狙撃者の少年は悔し気に舌打ちをし、瓦を蹴って去って行ってしまった。


「おい待てっ!!」


エルクは追おうとしたが、フィールが彼の肩をぐっと押さえた。


「ダメだよ、エルク。今は教会に行くのが先だろ?それに…きっとまた現れるよ、あの子」

「くそっ…」


名も知らぬ少年が言い放った「悪魔」という言葉。

それが耳に残ったまま、エルクたちは再び中央教会へ向かったのだった。


石畳の道をまた馬車で進み、しばらくして到着すると数人の教会員が二人を出迎えた。

重厚な扉が静かに開かれ、荘厳な雰囲気の漂う教皇の執務室へと案内される。


部屋の奥にある大理石の机の向こうには、銀髪を流した穏やかな表情の男の姿がある。


それは、教会の頂点に立つもの、ロイド=フリージアその人だった。


「よく来たな。…いや、本当によく来た」


ロイドはそう言うなり、笑顔のまま二人の額をそれぞれコツンっと小突いた。


「いっ…!?なにすんだよ!!」

「す、すみません……!」


エルクは露骨に不機嫌な顔をして頭を押さえ、フィールは反射的に頭を深く下げた。

その後、ロイドはため息交じりに肩をすくめ、少しだけ真剣な目で二人を見つめる。


「…心配かけるなよ。お前たちは大事な―――『家族』なんだからな」


その言葉に、エルクはほんの一瞬だけ目を瞬かせた。

だがすぐに表情を戻し、「…わかったよ」とそっけなく返す。


(『家族』って…まぁ、教会の人間全員のことだろうけど、なんか…やけに重く感じるな…)


そんな違和感を胸に残しながら、エルクは視線をロイドに戻す。


「…それより教皇、話があるんだ。ラインバーグとルーンで起きた事件で、気になることがいくつかある」

「…すでに南支部から報告は受けている。だが、お前たちの口からも直接聞きたいと思っている」


エルクとフィールは無言で頷き、そこから報告書に沿いながら補足を始めた。

ラインバーグでのグール事件、ルーンの街での神器盗難、ヴァレファールとの戦闘、そして崇拝教の影…。

順を追って説明すると、ロイドは静かに目を伏せた。


「やはり…か」

「知っていたのか?」


エルクが身を乗り出して問うと、ロイドは首を縦に振った。


「いや、実を言うと崇拝教という名が広まったのはつい最近のことだ。正体はまだ謎が多く、構成員すら把握できていない」

「……」


教会が把握できていないということは、それだけ『深い』ということだ。

エルクの拳が、無意識のうちに固く結ばれていく。

静まり返る教皇の執務室で、エルクの瞳が真っすぐにロイドを捉えたまま、空気はしばしの緊張を保つ。


そのときだった。

ロイドがふと思い出したように、優しい声音で口を開いた。


「エルク、お前が旅を続けているもう一つの理由―――ライナスの手がかりは何か掴めたのか?」


その名を聞いた瞬間、エルクの表情がわずかに揺れた。


「……」

「ん?」

「……まだ…はっきりした手がかりはない。でも、怪事件の裏に、あいつが関わってる気配があるんだ。何かが…確かに繋がってる。だから追いかけるしかないと思ってる」


拳をさらに固く握るエルクの言葉には、焦りがあったわけではない。

兄弟だからこその、確信があったのだ。


「まったく…頑固なのは誰に似たんだか…」


ロイドは目を細め、椅子に深く腰かけながら天井を見上げた。

小さなため息を漏らしつつも、机の上の地図に指を滑らせる。

そして、アースヘルムから少し西にある小さな村で指を止めた。


「西の山あいに『ユン村』という集落がある。そこで最近…妙なことが起こったんだ」

「妙なこと?」

「霧の深い夜、巨大生物が現れたという」

「!!」

「落ち着けって。ただ、襲われたという話はない。被害は納屋の食料が減っている程度だ」

「…家畜が食っただけじゃ……」

「それは我々も考えたさ。でも住民は不安がっている。それに…」


ロイドはぐっと身を乗り出し、エルクに近づいてこう言った。


「…もしかしたらこの怪現象は、何か『異常が起こる兆し』なのかもしれない」

「―――!!」

「エルク、フィール。原因を突き止めてこい。もし本当に崇拝教が絡んでいるのなら、放置はできん」


ロイドの声が引き締まり、空気が張り詰める。


「行ってくる」


エルクは迷うことなくそう告げ、椅子を押しのけて立ち上がった。

少し遅れてフィールも立ち上がり、「準備が出来次第、すぐに向かいます」と頭を下げた。

そして、扉に向かう二人に―――


「…気をつけろよ。無茶はするな。」


と、ロイドが言うと、エルクは背を向けたまま片手を挙げて応えたのだった。


「俺たちは無茶しかしねぇからな」

「エルクっ…!」


廊下に出た二人は顔を見合わせ、軽やかな足取りで歩き進む。


「やったな!次の街だ!」

「街っていうより村みたいだけどね!」


こうして二人は新たな街…いや、村へ堂々と調査しに行くことが決定したのだった。

そして、馬車を乗り継いで着いたのは、西の山あいにひっそりと広がる小さな村―――ユン村だ。


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