表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/97

プロローグ

それはまるで、世界の終わりのような光景だった。


空は怒り狂うようにうねりをあげ、漆黒の雲が頭上を覆いつくしている。

雲からこぼれ落ちる雨は、恨みでもあるかのように勢いを増して落ち、地を叩きつけていたのだ。


そして、ただの水が木々を裂き、建物を破壊したとき雷鳴が咆哮した。

土砂が崩れ、すべてを押し流す音が空気を裂く。


そんな埃と雨が入り交じるなか、エルク=フリードマンは走っていた。

肩で息をしながら、押し寄せる木々や土砂を手でかき分け走っていたのだ。


「母さん…っ!ライナスっ…!」


しかし、誰の返事もない。

そして、誰の声も聞こえない。


耳をつんざく雷の音が、絶望感をかき立てる。


「何かがおかしい…!どうしてこんな天気に‥‥」


そう疑問に思ったとき、彼の目に村の裏手にある祠の姿が映った。

その祠はこの狂気的な雨の中、不気味な光を放っている。


「あれは、村の奥に隠されていた祠…?」


その祠は、天変地異が起こらないように封じられた祠だった。

だから誰も近づくことはしなかったし、奥に隠されていた。


なのに――――


そこには黒衣を纏った集団がいたのだ。

その中心には、彼が探していた弟ライナスの姿がある。


「え……?」


ライナスは恐怖を感じているのか顔を歪め、涙を流している。

なぜ彼がここにいるのか、なぜ彼が涙を流しているのかわからないエルクは、呆然と見ていた。


が、その瞬間、不気味な光の強さが増した。


思わず目を閉じてしまうくらいの強い光に、エルクは思わず自身の腕で目を覆う。

それと同時に、一瞬だけ空気がねじれたような嫌な感覚が身を包んだ。


熱いのか冷たいのかもわからない。

ただ、胸の奥を鋭い爪でかきむしられるような不快な感覚だ。

そんななか、エルクは光の中へ視線を向けた。


そして―――

彼は見てしまった。


先ほどまで顔を歪めていたライナスが、まるで知らない人のように笑っていたのだ。

口元を引きつらせるような笑みに、今度はエルクが恐怖を覚える。


「…ライ……ナス…?」


いつも呼んでるはずの弟の名前を口に出した瞬間、声が震えた。

目の前の存在が、本当に弟なのだろうか。

その問いすら、口にすることが怖い。


しかし、エルクの細い声は、ライナスに届いていた。

その場から動かず、ただうっすらと口元をつり上げ、その目でエルクを見ている。


その直後、再び雷鳴が轟き、地が裂け始めた。

崩れ行く村を、洪水が飲み込んでいく。

人の悲鳴も家の形も、何もかも―――。


「うわぁぁぁあっ……!!あぁぁっ…!」


泥のように重たい決意が、胸の奥に沈む。

それは、怒りでも悲しみでもなかった。


ただ、あの笑みがすべてを決定づけていた。

村を壊したのは―――ライナスだ。

あの封印を解いたのは、ほかならぬ弟だったのだ。


それを見てしまったエルクは、目を背けることができない。

いや、背けてはならないのだ。

ただ、生き残ってしまった自分に課された…『責務』だ。


この日、少年はすべてを失った。

それと同時に、彼は『運命に選ばれた存在』となる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ