タイトルは面白そう
夜の遊園地、観覧車の中で、莉子はじっと窓の外を見つめていた。街が宝石のように広がっているが、その美しさを感じる余裕はなかった。
今日は恋人の悠斗と別れ話をするためここに来た。付き合い始めて3年、最初のときめきはどこかに消え、今は惰性で続く関係になってしまった。それでも悠斗は彼女を観覧車に誘い、最後の時間を過ごそうと言ったのだ。
観覧車が静かに揺れる。二人きりの空間。悠斗はいつも通り無邪気な笑顔で、「この景色、凄いよな」と言った。莉子は答えない。胸に痞えた言葉をどうしたものか分らなかった。
「最近、俺たちうまくいってないよな。」
その一言に、彼女は驚いた。悠斗はいつも、空気を読まないふりをして話題をそらすのが得意だったのだ。
「俺、考えてたんだ。これからも一緒にいられるのかなって。」
観覧車はゆっくりと頂上に近づいていく。街の明かりで莉子の表情もはっきりと見える。
「正直言うと、私も同じことを考えてた。」莉子は小さく息を吐いた。「もう一緒にいる理由がわからなくなってる。」
悠斗は黙って頷いた。その静けさが痛いほど胸に響く。
「でもさ。」悠斗はぽつりと続けた。「観覧車って面白いよな。どんなに高いところに行っても、結局はまた下に戻ってくる。終わりに見えるけど、実は輪になってる。」
莉子はその言葉の意味を探るように彼を見つめた。悠斗は少し照れくさそうに笑いながら言葉を継ぐ。
「俺たちも、今はこうして終わりに向かってるけどさ。もしかしたら、また別の形で始まれるんじゃないかなって思ったんだ。」
観覧車が頂上に達し、ゆっくりと下降を始める。風の音がかすかに聞こえる中、莉子は少しだけ微笑んだ。
「それって、また友達に戻るってこと?」
悠斗は首を傾げながら答えた。「それでもいいし、もっと先の話でもいい。とりあえず、俺は終わるのが怖いんじゃなくて、輪が続いてるのが面白いって思うんだ。」
観覧車が地上に戻る頃には、二人の間に流れていた空気は少しだけ軽くなっていた。
「じゃあ、今日で終わりにしよう。」莉子は穏やかに言った。「でも、またどこかで会ったら、話しかけてもいい?」
悠斗は笑顔で頷いた。「もちろんだよ。そのときは、また新しい観覧車に乗ろう。」
観覧車のドアが開き、二人はそれぞれの方向に歩き出した。けれど、心のどこかで、彼らはまたどこかで繋がることを信じていた。輪のように、終わりはまた始まりになるのだから。