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「というわけで、カレーでクライドを落そうと思いますの」

「カレー?」


 クライドを落すと決めた翌日、キャロルは学園の庭園でベンチに座り、親友のメイ・ワッツとそんな話をしていた。

 家に帰ったキャロルが、一晩考えて辿り着いた方法が『カレー』だったのだ。


 一見すると突拍子もない発言にも思われるが、一応ちゃんと理由がある。

 カレーはクライドの好物だ。カフェテリアのメニューにカレーが並ぶ時は、クライドは必ずそれを注文している。

 この国で定番のカレー以外にも、バターチキンカレー、ドライカレー、グリーンカレー、カレースープ。変わり種なら、ヌードルの入ったカレー。野菜や肉等、具材でも変化するそれらを、クライドはよく食べていた。特に好きなのは辛口だ。


 そんなカレーを使ってキャロルはクライドを落そうと思った。

 簡単に言うと『胃袋をがっちり掴もう作戦』である。

 ちなみにこれはキャロルの母のアドバイスでもあった。

 キャロルが母にクライドをもっとしっかり落としたいと相談したところ、そう提案されたのである。


「お母様もこれでお父様をゲットしたのよ」


 母は、うふふ、と笑ってそんな事を教えてくれた。初耳だった。そして衝撃だった。

 キャロルの両親はとても仲が良い。二人の関係はキャロルにとっては理想だ。

 胃袋を掴んで、しっかり落とせば、そんな関係になれるのならば、これはやるしかないだろう。

 そんな事をメイに言うと、彼女はふわふわとしたこげ茶色の髪を揺らし「おおー」とぱちぱち拍手してくれた。


「クライドさんは、しっかり落ちていると思うけれど、もっと落とすのね」

「嫌がられている可能性もなきにしも非ずですの!」

「ないかしらねぇ」


 メイはおっとり微笑んだ。

 クライドがキャロルにベタ惚れなのは、それなりに付き合いのある人間ならば誰が見ても分かる。

 彼は表情こそあまり変わらないが、行動が分かりやすいのだ。キャロルを見かけると直ぐ駆け寄って来るし、キャロルと道を歩く時も自分が危険な位置につく。昼食の時だって、キャロルの食べている様子を楽しそうに見ている。


(表情がどうのと言うのは、ルイーズさんがクライドさんをよく見ていない証拠なのよねぇ)


 まぁ、しかし。ルイーズの行動で、キャロルとクライドが変に拗れているわけでもないし、何ならただイチャイチャしているだけに見える。

 なのでまぁ放っておいても大丈夫かな、とメイは思った。

 そうして話を聞いていると、


「それで、これがそのキーアイテムですの!」


 キャロルが鞄の中から丸い包みを一つ取り出した。

 両手に乗るくらいの大きさの何かだ。そこからカレーの良い香りがする。


「カレーパンですの!」

「まあ。カレーの香りがすると思ったら、これだったのね」

「はいですの! これなら持ち運びも簡単ですのよ。メイは辛口のカレーって大丈夫?」

「ええ、好きよ」

「良かった! これ、お裾分け。良かったらどうぞ!」

「まあ、ありがとうキャロル。嬉しいわ」


 キャロルがカレーパンの包みを差し出すと、メイはにこっと笑って受け取ってくれた。

 そして包みを開けて、ぱくりと一口。


「ん、美味しい。外はカリカリ中がふわふわしていて食感も楽しいわ」

「んふふ……。あ、飲み物もありますの」

「ありがとう。……はぁ。クライドさんが羨ましいわ。私も、キャロルみたいな婚約者がいたら良かったのに」


 差し入れだけでも嬉しいが、ちゃんと辛い物を食べたら喉が渇くだろうと考えて、飲み物も用意してくれている。

 そういう気遣いが出来るキャロルみたいな子が、自分の婚約者だったらいいなぁとメイは言う。

 もちろん相手からされるだけではなく、自分も出来るというのが重要だ。

 するとキャロルは首を傾げた。


「あら。メイはとてもモテているじゃありませんか。色んな人から、メイに好きな人はいないか聞いてくれって言われていますもの。例えばクライドの……」


 幼馴染のチャーリーが、と言いかけた時。

 メイが何かを見つけて「あ」と口を開けた。


「どうしましたの?」

「キャロル、あそこにクライドさんがいるわ」


 そう言ってメイが庭園の反対側を指さす。

 キャロルが目で指の先を追うと、そこにはクライドが片手に本を抱えて歩いているのが見えた。図書館に行った帰りだろうか。


「キャロル、クライドさんの分のカレーパン、今持っているんでしょう?」

「もちろんですの!」

「なら、頑張って!」

「メイ……ありがとうございます!」


 メイに背中を押され、キャロルは立ち上がるとクライドの方へ向かう。

 クライドは喜んでくれるだろうか。そう思いウキウキしながら歩いた。


 ――――のだが。


「クライド~!」


 そのクライドを誰かが呼ぶ声が聞こえて、キャロルは思わず足を止めた。


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